Acid Anhydride Formation
酸無水物の生成の反応機構(巻矢印つき・機械検算済み)
酸無水物の合成:塩化アセチル+酢酸イオン(カルボキシラート)→ 無水酢酸+Cl⁻。求核アシル置換(付加–脱離)の最小例。
全体式
反応機構(段ごと)
酢酸イオンの負に帯びた酸素O10の孤立電子対が、塩化アセチルのカルボニル炭素C1を攻撃して新しいO10–C1結合を作る(A)。玉突きでC1=O2のπ電子が酸素O2へ降り(B)、O2はマイナスを帯びる。炭素C1に4本の結合がついた四面体中間体(アルコキシド型)ができる。カルボニル炭素は電子求引性のClと二重結合の酸素にはさまれて強くδ⁺なので、弱い求核剤のカルボキシラートでも付加できる。
Q.なぜ酢酸イオンの酸素がカルボニル炭素を攻めるのか
A.カルボニル炭素C1が求電子的(δ⁺)で、酢酸イオンの酸素O10が負電荷をもつ求核剤だから。C1は電気陰性なClと二重結合O2の両方に電子を引かれていて特に電子不足なので、求核剤の攻撃を受けやすい。
四面体中間体で負電荷をもった酸素O2の孤立電子対が、C1との間に二重結合を作りに戻る(B)。玉突きでC1–Cl3の結合電子が塩素Cl3へ降りて、Cl⁻として脱離する(B, 脱離矢印)。カルボニルC1=O2が再生し、O10を橋にした無水酢酸(CH3CO–O–COCH3)が完成する。Cl⁻は塩基性が低く安定なので良い脱離基として抜けられる。
Q.なぜHではなくCl⁻が抜けるのか(ケトンとの違い)
A.Cl⁻は脱離基になれるが、ケトンのアルキル基やHは脱離基にならないから。脱離のしやすさは共役酸のpKaで決まり、Cl⁻(共役酸HCl, pKa約-7)は非常に抜けやすい。だからカルボン酸誘導体は付加のあとに脱離が続き、ケトン・アルデヒドは付加で止まる。
なぜこう進むのか
- 原理
- カルボン酸誘導体(塩化アシル・酸無水物・エステル・アミドなど)は、ケトンやアルデヒドと違って『求核付加–脱離(求核アシル置換)』で反応する。求核剤がカルボニル炭素に付加して四面体中間体を作り(付加)、そこから脱離基が抜けて新しいカルボニルが再生する(脱離)。ここでは酢酸イオンの酸素が塩化アセチルのカルボニル炭素を攻め、四面体中間体を経てCl⁻が脱離し、無水酢酸ができる。
- 選択性
- Q.なぜ塩化アシルは酸無水物に変換できて、その逆(酸無水物→塩化アシル)は起きにくいのか
A.求電子性(反応性)の序列が 塩化アシル > 酸無水物 だから。反応性の高い(不安定な)塩化アシルから、反応性の低い(安定な)酸無水物への変換は下り坂で容易。逆向きは登り坂で起きにくい。 - 駆動力
- Q.なぜ四面体中間体からCl⁻が抜けて反応が進むのか
A.Cl⁻が良い脱離基だから。脱離のしやすさは共役酸のpKaが低いほど大きく、HClのpKa(約-7)はカルボン酸(約5)よりずっと低い。Cl⁻は塩基性が低く安定に抜けられるので、四面体中間体からCl⁻が脱離してカルボニルが再生する方向に進む。
検算
この機構は機械検算を通過しています。
原子の保存・電子の流れ・生成物への到達を機械検証済み。経路の妥当性は複数ありうる。
検算の内訳を見る
| 矢印⇄結合変化の整合 | 整合 | fail=0 / check=0(全2段) |
|---|---|---|
| 電荷保存 | 保存 | 全段で電荷保存 |
| 中間体の鎖の連続 | 連続 | 中間体の鎖が連続 |
| 生成物への到達(内部整合) | 到達 | 看板の生成物が機構の終着点に一致 |
| 生成物の分子式 | C4H6O3 | |
| PubChem 照合 | 緑・完全一致 | 完全一致(CID 7918) acetyl acetate |