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Baeyer-Villiger Oxidation

バイヤー・ビリガー酸化の反応機構(巻矢印つき・機械検算済み)

Baeyer–Villiger酸化:シクロヘキサノン+mCPBA(m-クロロ過安息香酸)→ ε-カプロラクトン(7員環ラクトン)+ m-クロロ安息香酸。ケトンのカルボニル炭素とα炭素の間に酸素が1つ挿入され、環が1つ大きくなる。

全体式

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反応機構(段ごと)

段 1
過酸カルボニルのプロトン化(求核付加の活性化)
試薬・条件: H⁺(酸性条件・ヒドロニウム)
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シクロヘキサノンのカルボニル酸素O1の孤立電子対が、酸(ヒドロニウム)のプロトンH8を受け取る(C)。玉突きでO40–H8の結合電子が酸素O40へ戻って水になる(B)。カルボニルがプロトン化されて炭素C2の求電子性(オキソカルベニウム性)が上がり、弱い求核剤である過酸の末端酸素でも付加できるようになる。

Q.なぜ先にカルボニルをプロトン化するのか

A.プロトン化するとC=Oの炭素C2がより強くδ⁺(オキソカルベニウム性)になり、中性で弱い求核剤である過酸の末端酸素O9でも付加できるようになるから。Baeyer–Villigerは弱酸性条件で進み、この活性化が付加を助ける。

段 2
過酸の付加(Criegee中間体の生成)
試薬・条件: 過酸の末端酸素(求核剤)
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過酸の末端酸素O9の孤立電子対が、活性化されたカルボニル炭素C2を攻撃して新しいO9–C2結合を作る(A)。玉突きでC2=O1⁺のπ電子が酸素O1へ降りて中性の–OHになる(B)。C2は4本の結合をもつ四面体炭素になり、これが Baeyer–Villiger の鍵中間体=Criegee中間体(–O–O–CO–Ar のペルオキシエステルが炭素にぶら下がる)。付加したO9側が正電荷を帯びる。

Q.なぜ過酸は末端の酸素(O–OHの外側O)でカルボニルを攻めるのか

A.過酸 Ar–CO–O–OH の末端酸素O9は孤立電子対をもつ求核点で、隣の弱いO–O結合のぶん反応性のある求核酸素として働くから。この酸素がカルボニル炭素C2に付くことで、後段の転位で切るべきO–O結合を分子内に抱えたCriegee中間体ができる。

段 3
プロトン移動(Criegee中間体の中性化)
試薬・条件: 溶媒/カルボン酸(プロトンの受け渡し)
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溶媒(水/カルボン酸)が、付加した酸素O9⁺の上のプロトンH20を引き抜く(C)。玉突きでO9–H20の結合電子が酸素O9へ戻り、O9は中性のペルオキシ酸素になる(B)。正電荷が消え、C2に中性の–OH(O1)と中性の–O–O–CO–Ar(O9)が付いた中性のCriegee中間体になる。次段の転位・脱離の準備が整う。

段 4
アルキル基転位とO–O開裂(協奏・ラクトン骨格の生成)
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3本の矢印が同時に動く協奏段。まず–OHの酸素O1の孤立電子対がC1–O2間(C2)に二重結合を作りに行き(A)、玉突きで隣のα炭素C3が、C2–C3の結合電子ごと隣の酸素O9へ転位して新しいC3–O9結合を作る(B)。同時にその押し出しでO9–O10の弱い結合電子が酸素O10へ降り、m-クロロ安息香酸のカルボキシラートが脱離する(B, 脱離矢印)。C2とC3の間に酸素O9が割り込み、C2=O1⁺のプロトン化ラクトン(オキソカルベニウム)ができる。C–C結合が切れて同じ場所にC–Oができる=これがO挿入の実体。

Q.なぜアルキル基(α炭素C3)が、水素やアリール側でなく転位するのか/なぜO–Oが切れるのか

A.転位段の遷移状態は動く炭素C3上に部分正電荷を帯びる(カルボカチオン的)ので、その正電荷を安定化できる置換の多い炭素ほど転位する(転位能:第3級>第2級・環状>第1級>メチル)。シクロヘキサノンでは両隣が等価な第2級環炭素なのでどちらが動いても同じ結果になる。切れるのは弱いO–O結合で、抜けたあとが共鳴安定なカルボキシラート(良い脱離基)になるため、この方向へ協奏的に進む。

段 5
脱プロトン(ε-カプロラクトンの完成)
試薬・条件: カルボキシラート(塩基)
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脱離してきたm-クロロ安息香酸のカルボキシラート酸素O10が、プロトン化ラクトンのカルボニル酸素O1⁺の上のプロトンH8を引き抜く(C)。玉突きでO1–H8の結合電子が酸素O1へ戻って中性のC=O(エステル/ラクトン)になる(B)。7員環のε-カプロラクトン(–O–CO–を含む環)が完成し、副生成物のm-クロロ安息香酸が再生する。

なぜこう進むのか

原理
過酸(R-CO-O-OH)の弱いO–O結合の末端酸素が求核剤としてケトンのカルボニル炭素に付加して四面体中間体(Criegee中間体)を作る。次にこの中間体から、カルボニル炭素に隣り合うアルキル基がその結合電子ごと隣の酸素へ転位し、同時に弱いO–O結合が切れてカルボン酸が脱離する(協奏=1段で起こる)。結果として『C–C結合が切れて、そこにO–C結合ができる』=カルボニル炭素とα炭素の間に酸素が1つ割り込む形になり、ケトンがエステル(環状ならラクトン)に変わる。炭素の酸化数が上がる酸化反応。
選択性
Q.アルキル基が2つある(左右のα炭素)のに、なぜ生成物のO挿入の向きが決まるのか=どちらのアルキル基が転位するのか
A.転位段の遷移状態は、動くアルキル基の炭素上に部分的な正電荷を帯びる(カルボカチオン的)。だからより置換の多い(=カチオンを安定化できる)炭素ほど転位しやすい。転位能の序列は 第3級 > 環状・第2級 > ベンジル > 第1級 > メチル。この序列で『どちら側のC–Cが切れてOが入るか』が決まる。対称なシクロヘキサノンは両α炭素が等価(どちらの第2級炭素が動いても同じ7員環ラクトン)なので、位置の問題は生じず単一のε-カプロラクトンになる。
駆動力
Q.なぜこの酸化が進むのか(何が反応を後押しするのか)
A.過酸のO–O結合が弱く(結合エネルギーが小さく)、切れやすいことが第一。転位段でこの弱いO–O結合が切れて、安定なカルボン酸(RCO2H、共役塩基が共鳴安定なカルボキシラート)が脱離基として抜けるので、エネルギー的に下り坂になる。転位してくるアルキル基が遷移状態の正電荷を安定化することも後押しになる。

検算

この機構は機械検算を通過しています。

原子の保存・電子の流れ・生成物への到達を機械検証済み。経路の妥当性は複数ありうる。

検算の内訳を見る
矢印⇄結合変化の整合整合fail=0 / check=0(全5段)
電荷保存保存全段で電荷保存
中間体の鎖の連続連続中間体の鎖が連続
生成物への到達(内部整合)到達看板の生成物が機構の終着点に一致
生成物の分子式C6H10O2
PubChem 照合緑・完全一致完全一致(CID 10401)
oxepan-2-one
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