Moleculus
有機化学リファレンス

Kinetic Enolate Formation

速度論的エノラートの生成

速度論的エノラートの生成:2-メチルシクロヘキサノン + LDA(THF・−78℃)→ 置換の少ない側(メチルの付いていない CH2 側)のエノラート。かさ高い強塩基 LDA が、立体的に空いていて触りやすいα水素を速く・不可逆に引き抜く。同じ基質を NaOEt・平衡条件で処理する熱力学的エノラート(置換の多い側)と対になる。

全体式

出発物から生成物へ

+
基本形 General Form

反応の基本形

ケトン(α-H)+ LDA → 速度論的エノラート(置換の少ない側)

かさ高い強塩基 LDA・低温(−78℃)・不可逆エノラートの生成(速度論支配)

かさ高い強塩基が置換の少ないα水素を速く不可逆に奪い、置換の少ない側のエノラートを与える反応である。

機構 Mechanism

反応機構(段ごと)

巻矢印はA=攻撃 / B=脱離・π形成 / C=プロトン移動。本文の (A)(B)(C) は図中の同色の矢印を指します。

Step1

置換の少ない側α水素の脱プロトン(速度論的エノラート生成)

試薬・条件LDA(リチウムジイソプロピルアミド・かさ高い強塩基・−78℃)

123456789101112131415161718
生成物(完成)
123456789101112131415161718

メチルの付いていない CH2 側のα炭素カルボニルの隣(α位)の炭素についた水素。塩基で外れやすく酸性を示す。C9上の水素H13は、カルボニル炭素と酸素が二重結合したC=O構造。炭素が電子不足で、求核剤に攻められる。C1に隣接して酸性(pKa≈20)。かさ高いLDAの窒素N10の孤立電子対結合に使われず、原子の上に対で残っている非共有の電子対。求核剤として攻める手になる。が、立体的に空いていて触りやすいH13を引き抜き(C)、C9–H13の結合電子がC1–C9の間に二重結合C1=C9を作りに行き(B)、玉突きでC1=O2のπ電子が酸素O2へ降りてO⁻になる(B)。負電荷がO2まで非局在化1つの構造式では描き切れない電子の広がりを、複数の極限構造で表す考え方。できることがα水素の酸性の理由。生じるのはメチルを含まない置換の少ないC=C(C1=C9)をもつ速度論的エノラートカルボニルの隣(α位)の水素が外れてでき、炭素と酸素に負電荷が広がった陰イオン。で、O⁻とα炭素に負電荷が乗る。メチルの付いた C3 側の水素H7は混んでいてかさ高い塩基が近づきにくく、こちらは残る。

Q.なぜ2つのα炭素のうち置換の少ない C9 側を抜くのか(メチルの付いた C3 側でなく)

A.LDA はかさ高く(イソプロピル基が2つ)、メチルで混んだ多置換側 C3 の水素より、立体的に空いた CH2 側 C9 の水素の方に近づきやすいから。−78℃・強塩基で脱プロトン分子が水素イオン(H⁺)を塩基に引き抜かれて手放す操作。プロトン化の逆である。は不可逆に一度きり進む(速度論支配)ので、速く抜ける C9 側がそのまま生成物になる。C3 側を抜けば多置換で安定なエノラートになるが、それが優先するのは可逆な平衡条件(熱力学支配)のときで、この条件では効かない。

考察

なぜこう進むのか

原理
α水素カルボニルの隣(α位)の炭素についた水素。塩基で外れやすく酸性を示す。をもつケトンを塩基で脱プロトン分子が水素イオン(H⁺)を塩基に引き抜かれて手放す操作。プロトン化の逆である。するとエノラートカルボニルの隣(α位)の水素が外れてでき、炭素と酸素に負電荷が広がった陰イオン。(O とα炭素に負電荷が非局在した共鳴1つの構造式では描き切れない電子の広がりを、複数の極限構造で表す考え方。安定アニオン)になる。2-メチルシクロヘキサノンは2つのα炭素(メチルの付いた多置換側 C3 と、置換の少ない CH2 側 C9)を持ち、どちらを脱プロトンするかで生成物が分岐する。LDA はかさ高く(イソプロピル基が2つ)強い塩基だが求核性は低い。THF・−78℃の低温で使うと脱プロトンは事実上不可逆に一度きり進むので、いったんどちらのα水素が抜けたかが最終生成物を決める=速度論支配。かさ高い塩基は立体障害の少ない C9 側の水素に近づきやすく、そこを速く奪うので、置換の少ないエノラート(C1=C9)が優先する。
選択性
Q.なぜ置換の少ない側(C1=C9)のエノラートが選ばれるのか(熱力学的エノラートとの違い)
A.LDA はかさ高い強塩基で、−78℃・不可逆に一気に引き抜くから。塩基が大きいと、メチルで混んだ多置換側 C3 の水素より、立体的に空いた CH2 側 C9 の水素の方が近づきやすく、速く抜ける(脱プロトンの速度で決まる=速度論支配)。抜けたエノラートは低温で再プロトン化分子が水素イオン(H⁺、プロトン)を1つ受け取る操作。酸性条件でよく起こる。してやり直せないので、速く抜けた方がそのまま生成物になる。対して NaOEt・加熱・平衡条件では脱プロトン/再プロトンが可逆に繰り返され、最安定の多置換エノラート(C1=C3)に落ち着く=熱力学支配。基質は同じで、分岐するのは『かさ高い強塩基で不可逆か、弱塩基で可逆か』の一点。
駆動力
低温・かさ高い強塩基による不可逆な脱プロトン(速度論支配)。ケトンα水素の pKa≈20 に対し LDA の共役二重結合と単結合が交互に並び、π電子がひと続きに広がった状態。酸ジイソプロピルアミンの pKa≈36 で塩基が十分強く、脱プロトンはほぼ100%・一方向に進む(LDA は完全に脱プロトン)。可逆な平衡に落ちないので、最安定種でなく最も速く生成する種=立体的に空いた側から抜いた置換の少ないエノラートが得られる。
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同じ中間体・対になる選択性・連続する変換など、位置の近い反応です。反応マップで全体の中での位置も見られます。

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検算 Verified

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検算とは何か — 保証していないことも

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矢印⇄結合変化の整合整合 — fail=0 / check=0(全1段)
電荷保存保存 — 全段で電荷保存
中間体の鎖の連続連続 — 中間体の鎖が連続
生成物への到達(内部整合)到達 — 看板の生成物が機構中で実際に生成
生成物の分子式C7H11O-
PubChem 照合緑・完全一致(CID 21582123)
6-methylcyclohexen-1-olate
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