Kinetic Enolate Formation
速度論的エノラートの生成の反応機構(巻矢印つき・機械検算済み)
速度論的エノラートの生成:2-メチルシクロヘキサノン + LDA(THF・−78℃)→ 置換の少ない側(メチルの付いていない CH2 側)のエノラート。かさ高い強塩基 LDA が、立体的に空いていて触りやすいα水素を速く・不可逆に引き抜く。同じ基質を NaOEt・平衡条件で処理する熱力学的エノラート(置換の多い側)と対になる。
全体式
反応機構(段ごと)
メチルの付いていない CH2 側のα炭素C9上の水素H13は、カルボニルC1に隣接して酸性(pKa≈20)。かさ高いLDAの窒素N10の孤立電子対が、立体的に空いていて触りやすいH13を引き抜き(C)、C9–H13の結合電子がC1–C9の間に二重結合C1=C9を作りに行き(B)、玉突きでC1=O2のπ電子が酸素O2へ降りてO⁻になる(B)。負電荷がO2まで非局在化できることがα水素の酸性の理由。生じるのはメチルを含まない置換の少ないC=C(C1=C9)をもつ速度論的エノラートで、O⁻とα炭素に負電荷が乗る。メチルの付いた C3 側の水素H7は混んでいてかさ高い塩基が近づきにくく、こちらは残る。
Q.なぜ2つのα炭素のうち置換の少ない C9 側を抜くのか(メチルの付いた C3 側でなく)
A.LDA はかさ高く(イソプロピル基が2つ)、メチルで混んだ多置換側 C3 の水素より、立体的に空いた CH2 側 C9 の水素の方に近づきやすいから。−78℃・強塩基で脱プロトンは不可逆に一度きり進む(速度論支配)ので、速く抜ける C9 側がそのまま生成物になる。C3 側を抜けば多置換で安定なエノラートになるが、それが優先するのは可逆な平衡条件(熱力学支配)のときで、この条件では効かない。
なぜこう進むのか
- 原理
- α水素をもつケトンを塩基で脱プロトンするとエノラート(O とα炭素に負電荷が非局在した共鳴安定アニオン)になる。2-メチルシクロヘキサノンは2つのα炭素(メチルの付いた多置換側 C3 と、置換の少ない CH2 側 C9)を持ち、どちらを脱プロトンするかで生成物が分岐する。LDA はかさ高く(イソプロピル基が2つ)強い塩基だが求核性は低い。THF・−78℃の低温で使うと脱プロトンは事実上不可逆に一度きり進むので、いったんどちらのα水素が抜けたかが最終生成物を決める=速度論支配。かさ高い塩基は立体障害の少ない C9 側の水素に近づきやすく、そこを速く奪うので、置換の少ないエノラート(C1=C9)が優先する。
- 選択性
- Q.なぜ置換の少ない側(C1=C9)のエノラートが選ばれるのか(熱力学的エノラートとの違い)
A.LDA はかさ高い強塩基で、−78℃・不可逆に一気に引き抜くから。塩基が大きいと、メチルで混んだ多置換側 C3 の水素より、立体的に空いた CH2 側 C9 の水素の方が近づきやすく、速く抜ける(脱プロトンの速度で決まる=速度論支配)。抜けたエノラートは低温で再プロトン化してやり直せないので、速く抜けた方がそのまま生成物になる。対して NaOEt・加熱・平衡条件では脱プロトン/再プロトンが可逆に繰り返され、最安定の多置換エノラート(C1=C3)に落ち着く=熱力学支配。基質は同じで、分岐するのは『かさ高い強塩基で不可逆か、弱塩基で可逆か』の一点。 - 駆動力
- 低温・かさ高い強塩基による不可逆な脱プロトン(速度論支配)。ケトンα水素の pKa≈20 に対し LDA の共役酸ジイソプロピルアミンの pKa≈36 で塩基が十分強く、脱プロトンはほぼ100%・一方向に進む(LDA は完全に脱プロトン)。可逆な平衡に落ちないので、最安定種でなく最も速く生成する種=立体的に空いた側から抜いた置換の少ないエノラートが得られる。
検算
この機構は機械検算を通過しています。
原子の保存・電子の流れ・生成物への到達を機械検証済み。経路の妥当性は複数ありうる。
検算の内訳を見る
| 矢印⇄結合変化の整合 | 整合 | fail=0 / check=0(全1段) |
|---|---|---|
| 電荷保存 | 保存 | 全段で電荷保存 |
| 中間体の鎖の連続 | 連続 | 中間体の鎖が連続 |
| 生成物への到達(内部整合) | 到達 | 看板の生成物が機構の終着点に一致 |
| 生成物の分子式 | C7H11O- | |
| PubChem 照合 | 緑・完全一致 | 完全一致(CID 21582123) 6-methylcyclohexen-1-olate |