Moleculusモレキュラス 一覧 / 熱力学的エノラートの生成

Thermodynamic Enolate Formation

熱力学的エノラートの生成の反応機構(巻矢印つき・機械検算済み)

熱力学的エノラートの生成:2-メチルシクロヘキサノン + NaOEt(EtOH溶媒・0〜室温・加熱/平衡条件)→ 置換の多い側(C1=C2)のエノラート。弱めの塩基で脱プロトン/再プロトンが可逆に起こり、より安定な多置換エノラートが優先する。同じ基質を LDA・−78℃で処理する速度論的エノラート(置換の少ない側)と対になる。

全体式

+

反応機構(段ごと)

段 1
多置換側α水素の脱プロトン(熱力学的エノラート生成)
試薬・条件: NaOEt(EtOⁿ⁻・弱めの塩基・平衡条件)
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メチルの付いた多置換側のα炭素C3上の水素H7は、カルボニルC1に隣接して酸性(pKa≈20)。エトキシドO10の孤立電子対がH7を引き抜き(C)、C3–H7の結合電子がC1–C3の間に二重結合C1=C3を作りに行き(B)、玉突きでC1=O2のπ電子が酸素O2へ降りてO⁻になる(B)。負電荷がO2までを非局在化できることがα水素の酸性の理由。生じるのはメチル置換を含む多置換C=C(C1=C3)をもつ熱力学的エノラートで、O⁻とα炭素に負電荷が乗る。

Q.なぜ2つのα炭素のうちメチルの付いた C3 側を抜くのか(C6 側でなく)

A.弱めの塩基NaOEtが平衡(可逆)条件で働くから、どちらのα水素が抜けても再プロトン化してやり直せ、系は最安定のエノラートに落ち着く。C3側を抜くと生じるC1=C3二重結合はメチルとリング炭素で置換が多い(多置換アルケン)ぶん安定なので、こちらが優先する。C6側を抜くと置換の少ない二重結合になり不利。二重結合は置換基が多いほど安定というSaytzeff的な安定性序列が効く。

なぜこう進むのか

原理
α水素をもつケトンを塩基で脱プロトンするとエノラート(O とα炭素に負電荷が非局在した共鳴安定アニオン)になる。2-メチルシクロヘキサノンは2つのα炭素(メチルの付いた多置換側 C2 と、置換の少ない CH2 側 C6)を持ち、どちらを脱プロトンするかで生成物が分岐する。NaOEt のような弱めの塩基(EtOH の pKa≈16 とケトンα水素の pKa≈20 が近い=脱プロトンが不完全で可逆)を加熱・平衡条件で使うと、いったんできたエノラートが再プロトン化と脱プロトンを繰り返し、系は最も安定なエノラートに落ち着く。二重結合は置換基が多いほど安定なので(Saytzeff 配向と同じ理屈)、C1=C2 の多置換エノラートが熱力学生成物として優先する。
選択性
Q.なぜ置換の多い側(C1=C2)のエノラートが選ばれるのか(速度論的エノラートとの違い)
A.NaOEt は弱めの塩基で、脱プロトンが可逆(平衡)だから。いったんどちらのα水素が抜けても、弱塩基下では再プロトン化してやり直せるので、系は最終的に一番安定な生成物=C=C の置換基が多いエノラートに寄る(二重結合は多置換ほど安定)。対して LDA・THF・−78℃はかさ高い強塩基で不可逆に一気に引き抜くため、立体的に空いた置換の少ない側の水素を速く奪う=速度論的エノラート(置換の少ない側)になる。基質も条件を変える描き方も同じで、分岐するのは「可逆か不可逆か(熱力学支配か速度論支配か)」の一点。
駆動力
平衡を安定なエノラートへ寄せる熱力学支配。各脱プロトンは可逆で(ケトンα水素 pKa≈20 と EtOH pKa≈16 が近く塩基が弱いため部分的脱プロトン=平衡)、加熱により最安定種へ系が緩和する。安定性の序列は生成する C=C の置換基数で決まり、多置換の C1=C2 エノラートが最低エネルギーなので優先する(より安定=置換の多いエノラートが優先)。

検算

この機構は機械検算を通過しています。

原子の保存・電子の流れ・生成物への到達を機械検証済み。経路の妥当性は複数ありうる。

検算の内訳を見る
矢印⇄結合変化の整合整合fail=0 / check=0(全1段)
電荷保存保存全段で電荷保存
中間体の鎖の連続連続中間体の鎖が連続
生成物への到達(内部整合)到達看板の生成物が機構の終着点に一致
生成物の分子式C7H11O-
PubChem 照合緑・完全一致完全一致(CID 101379347)
2-methylcyclohexen-1-olate
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