Fischer Esterification
フィッシャーエステル化の反応機構(巻矢印つき・機械検算済み)
Fischer エステル化:酢酸 + エタノール、酸触媒(H⁺)→ 酢酸エチル + 水。酸触媒下のカルボン酸とアルコールの縮合(可逆平衡)。
全体式
反応機構(段ごと)
酢酸のカルボニル酸素O2の孤立電子対が、酸(ヒドロニウム)のプロトンH6を受け取る(C)。玉突きでO7–H6の結合電子が酸素O7へ戻って水になる(B)。カルボニルがプロトン化され、炭素C1がより強い求電子点(オキソカルベニウム性)になる。
Q.なぜ先に酸でカルボニルをプロトン化するのか
A.プロトン化するとC=Oの炭素がより強くδ⁺(オキソカルベニウム性)になり、中性で弱い求核剤のアルコールでも付加できるようになるから。これが酸触媒の前半の役割。
エタノールの酸素O10の孤立電子対が、活性化されたカルボニル炭素C1を攻撃して新しいO10–C1結合を作る(A)。玉突きでC1=O2⁺のπ電子が酸素O2へ降りて中性のOHになる(B)。C1は3つの酸素が付いた四面体炭素になり、付加したO10が正電荷を帯びる。
Q.なぜカルボニル炭素に付加が起こるのか(どこを攻めるのか)
A.カルボニル炭素C1は酸素との二重結合+プロトン化でδ⁺(電子が薄い)=求電子点だから。求核剤であるアルコール酸素の孤立電子対がこの電子の薄い炭素を攻める。これが求核アシル置換の『付加』の段。
水が、付加した酸素O10⁺の上のプロトンH11を引き抜く(C)。玉突きでO10–H11の結合電子が酸素O10へ戻り、O10は中性のエーテル型酸素(–OEt)になる(B)。これで正電荷が消え、C1には中性の–OH(O2, O3)が2つと–OEt(O10)が付いた中性四面体中間体になる。次にこの–OHの一方をプロトン化して脱離基にする準備。
四面体中間体の一方の–OH(酸素O3)が、酸からプロトンH30を受け取る(C)。玉突きでO31–H30の結合電子が酸素O31へ戻って水になる(B)。O3が–OH3⁺すなわち–OH2⁺型(良い脱離基=水)に変わり、脱水の準備が整う。
Q.なぜ–OHをそのまま抜かず、わざわざプロトン化するのか
A.–OH(水酸化物として抜ける形)はO⁻の共役塩基が強塩基で脱離基として悪い。プロトン化して–OH2⁺にすると、抜けたあとが中性の水(弱塩基)になり、良い脱離基になるから。脱離能の序列でも、共役酸のpKaが低い(=抜けたあとが安定)ほど脱離しやすい。
隣の酸素O2の孤立電子対がC1–O2の間に二重結合を作りに行き(A)、玉突きでC1–O3⁺の結合電子がO3へ降りて水が脱離する(B, 脱離矢印)。C1=O2⁺のプロトン化エステル(オキソカルベニウム)になる。酸素O2が隣接炭素の正電荷を電子対で安定化できるので、良い脱離基化した水を押し出せる。
Q.なぜ–OEtでなく水(もとの–OH由来)が脱離するのか
A.この段でプロトン化されて–OH2⁺(良い脱離基=水)になっているのはO3側だから。–OEtのO10は中性のエーテル酸素で脱離基として悪い。プロトン化で選ばれた側だけが抜け、残ったO10がエステルのC–O–Cになる。もし逆にO10側がプロトン化されて抜ければ出発物(酢酸)へ戻る=これが可逆性の実体。
水がプロトン化エステルのカルボニル酸素O2⁺の上のプロトンH6を引き抜き(C)、O2–H6の結合電子が酸素O2へ戻って中性のC=O(エステル)になる(B)。酢酸エチル(CH3CO–OEt)が完成し、触媒の酸(ヒドロニウム)が再生される。全6段はどれも可逆で、水を除くと平衡が生成側へ寄る。
なぜこう進むのか
- 原理
- カルボン酸+アルコールが酸触媒で脱水縮合してエステルになる求核アシル置換(付加–脱離)。カルボニルをまず酸でプロトン化して炭素をより強い求電子点にし(弱い求核剤のアルコールでも付加できる)、アルコール酸素がカルボニル炭素に付加して四面体中間体を作る。プロトンの付け替えで元の–OHを–OH2⁺(=良い脱離基の水)に変え、水が脱離してプロトン化エステル(オキソカルベニウム)になり、最後に脱プロトンして中性のエステルと触媒の酸が再生する。全段が可逆で、酸はどこでも消費されず再生される真の触媒。
- 選択性
- Q.なぜ酸触媒が必要なのか(触媒なしではなぜ進みにくいのか)
A.中性のアルコールは弱い求核剤で、中性カルボニル炭素のδ⁺も弱いので、そのままでは付加が遅い。酸でカルボニル酸素をプロトン化すると炭素の正電荷性(オキソカルベニウム性)が増して求電子性が上がり、弱いアルコールでも攻撃できるようになる。同じく脱離段でも–OHのままでは抜けないが、プロトン化して–OH2⁺(水)にすれば良い脱離基になる。酸は付加と脱離の両方を助け、最後に再生されるので触媒量でよい。 - 駆動力
- 各素反応は可逆で、反応全体も平衡(縮合=可逆平衡)。だから駆動力は熱力学的な偏りではなく、ルシャトリエの原理で平衡を生成側へ寄せることで得る=(1)アルコールを大過剰に使う、(2)生成する水を系外へ除く。逆反応(酸性加水分解)はまったく同じ経路を逆向きに辿るので、水を加えて過剰にすればエステルはカルボン酸へ戻る。
検算
この機構は機械検算を通過しています。
原子の保存・電子の流れ・生成物への到達を機械検証済み。経路の妥当性は複数ありうる。
検算の内訳を見る
| 矢印⇄結合変化の整合 | 整合 | fail=0 / check=0(全6段) |
|---|---|---|
| 電荷保存 | 保存 | 全段で電荷保存 |
| 中間体の鎖の連続 | 連続 | 中間体の鎖が連続 |
| 生成物への到達(内部整合) | 到達 | 看板の生成物が機構の終着点に一致 |
| 生成物の分子式 | C4H8O2 | |
| PubChem 照合 | 緑・完全一致 | 完全一致(CID 8857) ethyl acetate |