Grignard 1,2-Addition to an Enone
エノンへのグリニャール1,2-付加の反応機構(巻矢印つき・機械検算済み)
エノンへのGrignardの1,2-付加:メチルビニルケトン(MVK)+CH3MgBr → マグネシウムアルコキシド →(H2O後処理)→ 2-メチル-3-ブテン-2-オール(第三級アリルアルコール)
全体式
反応機構(段ごと)
MVKのカルボニル炭素C2は、電気陰性なO3にC=Oの電子を引かれて部分正電荷(δ+)を帯びている。硬い炭素求核剤であるGrignardのメチル等価体C10が、共役系のβ炭素C6ではなくこのカルボニル炭素C2を攻撃して新しいC2–C10結合を作る(A)=1,2-付加。玉突きでC2=O3のπ電子が酸素O3へ降りてアルコキシド(O⁻)になる(B)。C5=C6の二重結合はそのまま残る。C2はメチル2つとビニル1つを持つsp3の第三級炭素になり、O⁻はMg²⁺と塩(O–MgBr)を作る。Mg²⁺・Br⁻は対イオン。
Q.なぜβ炭素C6でなくカルボニル炭素C2を攻めるのか
A.Grignardは電荷が強く局在した硬い(hard)求核剤で、静電的に最も正電荷が濃い点=カルボニル炭素を直接攻めるから(HSAB)。カルボニル炭素はO側に電子を引かれてδ+が最大。だから軟らかいGilman試薬がβ炭素を狙う1,4-付加とは逆に、1,2-付加になる。
反応が終わったところで水(酸性後処理)を加える。アルコキシドO3⁻の孤立電子対が水のプロトンH21を受け取り(C)、玉突きでO20–H21の結合電子がO20へ戻って水になる(B)。二重結合を残したまま中性の第三級アルコール=2-メチル-3-ブテン-2-オール(CH2=CH–C(OH)(CH3)–CH3、第三級アリルアルコール)が完成する。
Q.なぜ最後に水(後処理)でプロトン化するのか
A.1,2-付加でできるのはアルコキシドのMg塩であって、まだアルコールそのものではないから。反応が終わった後に水を加えてO⁻をO–Hにプロトン化して初めて、目的の中性アルコールが取り出せる。付加の途中でなく最後に入れるのがGrignardの鉄則。
なぜこう進むのか
- 原理
- MVK のようなα,β-不飽和ケトン(エノン)は共鳴により、カルボニル炭素とβ炭素(末端の=CH2)の2つの求電子点をもつ。ここへ硬い(hard)炭素求核剤である Grignard 試薬 CH3MgBr を作用させると、メチル基がカルボニル炭素に直接C–C結合を作る=1,2-付加になる。π電子は酸素へ降りてマグネシウムアルコキシドになり、後処理の水でプロトン化して中性のアルコールにする。C=C二重結合はそのまま残るので、生成物は二重結合を残した第三級アリルアルコール(2-メチル-3-ブテン-2-オール)になる。
- 選択性
- Q.同じMVKでも、なぜGrignardは1,2-付加でGilman(R2CuLi)は1,4-付加なのか
A.求核剤の硬さ/軟らかさ(HSAB)で分かれる。Grignard・有機リチウムは電荷が強く局在した硬い求核剤で、静電的に最も正電荷が濃いカルボニル炭素(1,2位)を直接攻める=1,2-付加。対して有機銅(Gilman, R2CuLi)は分極率の高い軟らかい求核剤で、共役系の軟らかい求電子点=β炭素(1,4位)を好む=1,4-付加(共役/Michael付加)。だから同じエノンでも試薬を替えると付く位置が変わる。 - 駆動力
- C–Mg結合の強い求核性(分極でCが負電荷側)がδ+のカルボニル炭素との間に安定なC–C結合を作ることが駆動力。生じたアルコキシドは後処理の酸でプロトン化されて安定な中性アルコールに固定され、反応が完結する。この段では水を入れない(入れるとGrignardがプロトンを奪われて分解する)。
検算
この機構は機械検算を通過しています。
原子の保存・電子の流れ・生成物への到達を機械検証済み。経路の妥当性は複数ありうる。
検算の内訳を見る
| 矢印⇄結合変化の整合 | 整合 | fail=0 / check=0(全2段) |
|---|---|---|
| 電荷保存 | 保存 | 全段で電荷保存 |
| 中間体の鎖の連続 | 連続 | 中間体の鎖が連続 |
| 生成物への到達(内部整合) | 到達 | 看板の生成物が機構の終着点に一致 |
| 生成物の分子式 | C5H10O | |
| PubChem 照合 | 緑・完全一致 | 完全一致(CID 8257) 2-methylbut-3-en-2-ol |