Michael Addition
マイケル付加の反応機構(巻矢印つき・機械検算済み)
Michael 付加(共役付加):マロン酸ジエチル + NaOEt でエノラート(活性メチレンの脱プロトン)→ メチルビニルケトン(MVK, α,β-不飽和ケトン=Michael 受容体)へ 1,4-付加 → いったんエノラートを経て、プロトン化でケト体(1,5-ジカルボニル型の Michael 付加体)。
全体式
反応機構(段ごと)
エトキシド(EtO⁻)の酸素O20が、マロン酸ジエチルの活性メチレン(2つのエステルに挟まれた炭素C1)の水素H8を引き抜く(C)。玉突きでC1–H8の結合電子がC1とC5の間へ動いてC1=C5のπ結合を作り(B)、同時にC5=O6のπ電子が酸素O6へ降りてO6⁻になる(B)。負電荷が2つのカルボニル酸素に共鳴で分散した安定なエノラート(カルバニオン)が生じ、エタノールが遊離する。
Q.なぜ弱い塩基のエトキシドで脱プロトンできるのか(どのHが外れるか)
A.外れるのは2つのカルボニルに挟まれた活性メチレンのH。生じる負電荷が両側のカルボニル酸素へ共鳴で分散するため非常に安定で、この位置のC–Hは pKa ≈ 13 と小さい。エトキシド(共役酸エタノールの pKa ≈ 16)でも十分に脱プロトンできる。ふつうのケトンα-H(pKa ≈ 20)より格段に酸性。
エノラートの求核炭素C1(C1=C5のπ電子)が、MVKのβ炭素C30を攻撃して新しいC1–C30結合を作る(A)。玉突きで、エノラート酸素O6の負電荷が戻ってC5=O6のカルボニルが再生する(B)。受容側では、C30=C31のπ電子がC31–C32間へ動いてC31=C32を作り(B)、玉突きでC32=O33のπ電子が酸素O33へ流れ込む(B)。負電荷はカルボニル酸素O33に落ち着き、MVK由来のエノラートになる。C1はH1つ・エステル2つ・新しい鎖が付いた四置換炭素になる。
Q.なぜMVKの末端の炭素(β炭素C30)を攻めるのか
A.MVKはC30=C31–C32=O33が共役していて、カルボニルの求電子性(δ⁺)が共鳴でβ炭素C30まで広がっている(C30が求電子点)。求核剤がC30に付くと、余った負電荷がC31を経てカルボニル酸素O33まで流れ、共鳴安定なエノラートで受け止められる。これが1,4-付加(共役付加)=Michael付加。カルボニル炭素C32を直接攻める1,2-付加では、この安定なエノラートにならない。
MVK由来エノラートの酸素O33上の負電荷(O33–C32のπを作りに動く)がC32=O33を再形成し(B)、玉突きでC31=C32のπ電子がα炭素C31へ移って(B)、そのC31がエタノールのプロトンH40を受け取る(C)。O40–H40の結合電子は酸素O20へ戻ってエトキシドが再生する(B)。エノラートがケト体(C32=O33のメチルケトン)に戻り、Michael付加体が完成する。触媒として使った塩基(EtO⁻)が戻るのも要点。
Q.なぜここでプロトン化するとケト体(1,5-ジカルボニル)になるのか
A.付加直後の中間体はカルボニル酸素側に負電荷をもつエノラート(エノール形の共役塩基)。α炭素C31がプロトンを受け取ると、C=Cが消えてC=O(ケト形)に戻る=ケト‑エノール互変異性のケト側。こうしてできた生成物は、マロン酸部のカルボニルとMVK由来のケトンが炭素3つを挟んで並ぶ1,5-ジカルボニル化合物(Michael付加体)になる。
なぜこう進むのか
- 原理
- 安定なカルバニオン(1,3-ジカルボニルのエノラート)を、C=C–C=O が共役した α,β-不飽和カルボニル(Michael 受容体)の β 炭素に付加させて新しい C–C 結合を作る反応。ふつうの求核付加はカルボニル炭素(1,2-付加)だが、電子求引性のカルボニルが共役を通して β 炭素まで δ⁺ を広げているため、安定なエノラートのような穏やかな求核剤は、より遠い β 炭素を攻める 1,4-付加(共役付加)を選ぶ。β 炭素に付加すると負電荷はカルボニル酸素へ流れてエノラートで受け止められ、そこへプロトンが付いてケト体になる。生成物は 1,5-ジカルボニル(間に炭素 3 つを挟んで 2 つのカルボニルが並ぶ)で、しかも元の 1,3-ジカルボニル部分も残るため、さらに脱プロトン・アルキル化・加水分解/脱炭酸などへ展開できる。
- 選択性
- Q.なぜカルボニル炭素(1,2-付加)でなく β 炭素(1,4-付加)に付くのか
A.α,β-不飽和カルボニルは C=C と C=O が共役していて、カルボニルの δ⁺ が共鳴で β 炭素にも広がっている(β 炭素が求電子点になる)。マロン酸エステルのエノラートのように共鳴で安定化された穏やかな(軟らかい)求核剤は、いったん付いても外れやすい 1,2-付加でなく、付加後にエノラートとして安定化できる熱力学支配の 1,4-付加を選ぶ。硬い求核剤(Grignard 等)が 1,2-付加に寄るのと対照的。 - 駆動力
- 駆動力は 2 つ。ひとつは弱い塩基(NaOEt)でも 1,3-ジカルボニルの活性メチレンが脱プロトンされること(2 つのカルボニルに挟まれた C–H は共鳴で安定化され pKa ≈ 13 と小さい=エノラート化が進む)。もうひとつは、β 炭素へ付加した瞬間に負電荷がカルボニル酸素へ流れ、共鳴安定なエノラートで受け止められること(付加が有利になる)。最後のプロトン化で中性のケト体になり、生成物も 1,3-ジカルボニルなのでさらに使える。
検算
この機構は機械検算を通過しています。
原子の保存・電子の流れ・生成物への到達を機械検証済み。経路の妥当性は複数ありうる。
検算の内訳を見る
| 矢印⇄結合変化の整合 | 整合 | fail=0 / check=0(全3段) |
|---|---|---|
| 電荷保存 | 保存 | 全段で電荷保存 |
| 中間体の鎖の連続 | 連続 | 中間体の鎖が連続 |
| 生成物への到達(内部整合) | 到達 | 看板の生成物が機構の終着点に一致 |
| 生成物の分子式 | C11H18O5 | |
| PubChem 照合 | 緑・完全一致 | 完全一致(CID 253183) diethyl 2-(3-oxobutyl)propanedioate |