Moleculus
有機化学リファレンス

β-Keto Acid Decarboxylation

β-ケト酸の脱炭酸

β-ケト酸の脱炭酸(アセト酢酸エステル合成の仕上げ):2,2-ジメチル-3-オキソブタン酸エチル(α位を2つメチル化したβ-ケトエステル)を NaOH でけん化してβ-ケト酸(の塩)に戻し、酸性化して加熱すると6員環状の遷移状態を経てカルボキシ基が CO2 として外れる(脱炭酸)。最後にエノールがケトンに戻って 3-メチルブタン-2-オン(メチルイソプロピルケトン)になる。

全体式

出発物から生成物へ

+ +
基本形 General Form

反応の基本形

R–CO–CR'₂–COOH → R–CO–CHR'₂ + CO₂

酸性・加熱(β-ケト酸/β-ジカルボニル酸)脱炭酸(β-ケト酸)

カルボニルのβ位のカルボキシ基が、六員環状の遷移状態を経てCO₂として外れる脱炭酸である。

機構 Mechanism

反応機構(段ごと)

巻矢印はA=攻撃 / B=脱離・π形成 / C=プロトン移動。本文の (A)(B)(C) は図中の同色の矢印を指します。

Step1

けん化① 水酸化物イオンがエステルカルボニルを攻撃(四面体中間体)

試薬・条件NaOH

Step2
Step3

けん化③ カルボン酸の脱プロトン(不可逆な塩形成)

試薬・条件EtO⁻/OH⁻

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この段のあと
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生じたエトキシド(塩基)がカルボン酸のO–H(O20–H21)を引き抜き(C)、O20–H21の結合電子が酸素O20へ戻ってカルボキシラート(–COO⁻)になる(B)。この脱プロトン分子が水素イオン(H⁺)を塩基に引き抜かれて手放す操作。プロトン化の逆である。は強く発熱的で不可逆=けん化を完結させる(だからNaOH加水分解は塩基が化学量論的に消費される)。

Step4

酸性化:カルボキシラートをプロトン化(β-ケト酸)

試薬・条件HCl(H3O⁺)

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この段のあと
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後処理の酸(HCl)でカルボキシラートO20⁻がプロトンH41を受け取り(C)、O40–H41の結合電子がO40へ戻って水になる(B)。中性のβ-ケト酸になり、加熱で脱炭酸できる状態になる。

Step5

脱炭酸:6員環状TSでCO2脱離(→エノール)

試薬・条件加熱

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この段のあと
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β-ケト酸が6員環状の遷移状態結合が切れかけ・できかけの、エネルギーが最も高い一瞬の状態。取り出すことはできない。を組む:脱離するカルボキシ基のOH(O20–H41)の水素が、β位のケトン酸素O4へ向かい合う。協奏的複数の結合の切断と生成が、中間体を経ずに一度に同時に起こるさま。に、(1)α炭素カルボニルの隣(α位)の炭素についた水素。塩基で外れやすく酸性を示す。C5とカルボキシ炭素C9の結合C5–C9の電子がエノールのC3=C5二重結合を作りに行き(B)、(2)ケトンC3=O4のπ電子がO4へ降り(B)、(3)O4がプロトンH41を受け取り(C)、(4)O20–H41結合の電子がC9=O20を作ってCO2(O10=C9=O20)を完成させる(B)。一周の押し引きでCO2が外れ、エノール(C3にOH)が残る。

Q.なぜ6員環状TSなのか

A.脱離で生じるα炭素の負電荷を、β位のケトンがエノールとして引き受ける配置(脱離基結合の電子対を持ったまま分子から抜けていく原子や原子団。抜けたあと安定なほど良い脱離基となる。のOH水素→受け手カルボニル炭素と酸素が二重結合したC=O構造。炭素が電子不足で、求核剤に攻められる。酸素まで)が、ちょうど6員環で無理なく組めるから。6員環TSはひずみが小さく、プロトン移動とC–C開裂を同時に低い障壁で進められる。

Step6

ケト化① エノールのα炭素をプロトン化

試薬・条件H3O⁺

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この段のあと
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エノールのC3=C5π電子が、ヒドロニウムのプロトンH53を奪ってα炭素カルボニルの隣(α位)の炭素についた水素。塩基で外れやすく酸性を示す。C5に付ける(A)、O50–H53の結合電子がO50へ戻る(B)。C5がsp3になり、正電荷がC3に乗る(OHで安定化されたカチオン)。エノール→ケトの互変異性プロトンの移動と二重結合の組み替えで、ケト形とエノール形が行き来する現象。の前半。

Step7

ケト化② OHを脱プロトンしてカルボニル再生(3-メチルブタン-2-オン完成)

試薬・条件H2O(塩基)

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生成物(完成)
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水がO4–H41を引き抜き(C)、O4–H41の結合電子がC3=O4のカルボニル炭素と酸素が二重結合したC=O構造。炭素が電子不足で、求核剤に攻められる。πを作る(B)=C3の正電荷が消えてケトン(C3=O4)が再生する。エノール→ケトが完了し、3-メチルブタン-2-オン CH3–CO–CH(CH3)2 が完成する。α位カルボニルの隣(α位)の炭素についた水素。塩基で外れやすく酸性を示す。に残った2つのメチルが、脱炭酸で入った水素H53と合わさってイソプロピル基になる。

考察

なぜこう進むのか

原理
β-ケトエステルからケトンを取り出す仕上げの2手。(1)NaOHでエステルをけん化してβ-ケト酸(の塩)に戻す。(2)酸性にして加熱すると、β-ケト酸は6員環状の遷移状態結合が切れかけ・できかけの、エネルギーが最も高い一瞬の状態。取り出すことはできない。を経てCOOHがCO2として外れる(脱炭酸)。脱離で生じる負電荷を、β位のケトンC=Oがエノールとして受け止められるから、β-カルボニル炭素と酸素が二重結合したC=O構造。炭素が電子不足で、求核剤に攻められる。を持つ酸だけが加熱だけで脱炭酸する。最後にエノールがケトに戻ってケトンが残る。
選択性
Q.なぜ普通のカルボン酸は脱炭酸しないのに、β-ケト酸は加熱だけで脱炭酸するのか
A.β位(1つ飛び)にケトンのカルボニルがあるから。脱炭酸でα炭素カルボニルの隣(α位)の炭素についた水素。塩基で外れやすく酸性を示す。にできる負電荷を、その隣のC=Oがエノールとして直接引き受けて6員環状TSを安定化できる。β-カルボニルを持たない普通のカルボン酸はこの逃げ場が無く、ずっと高温が要る。マロン酸(β-ジカルボン酸)も同じ理由で脱炭酸する。
駆動力
気体CO2が抜けて系から出ていくこと(エントロピー)と6員環状TSの安定性が脱炭酸の駆動力。けん化は不可逆な塩形成(カルボキシラート生成)で平衡をカルボン酸側へ寄せる。
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検算 Verified

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検算とは何か — 保証していないことも

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矢印⇄結合変化の整合整合 — fail=0 / check=0(全7段)
電荷保存保存 — 全段で電荷保存
中間体の鎖の連続連続 — 中間体の鎖が連続
生成物への到達(内部整合)到達 — 看板の生成物が機構中で実際に生成
生成物の分子式C5H10O
PubChem 照合未照合 — キャッシュに結果なし
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