Moleculus
有機化学リファレンス

Ester Saponification

エステルのけん化

エステルのけん化(塩基性加水分解):酢酸エチル + 水酸化物イオン OH⁻ → 酢酸イオン + エタノール。水酸化物イオンがカルボニル炭素に付加して四面体中間体をつくり(付加)、そこからエトキシドが脱離して酢酸を生じ(脱離)、最後にそのエトキシドが酢酸を脱プロトンして酢酸イオンにする。この最後の酸塩基反応が反応全体を不可逆にする。

全体式

出発物から生成物へ

+
基本形 General Form

反応の基本形

R–CO–OR' + OH⁻ → R–COO⁻ + R'OH

水酸化物(NaOH)・水・加熱(不可逆)求核アシル置換(けん化)

水酸化物がエステルのカルボニルに付加・脱離し、カルボキシラートとアルコールに切れる不可逆な加水分解である。

機構 Mechanism

反応機構(段ごと)

巻矢印はA=攻撃 / B=脱離・π形成 / C=プロトン移動。本文の (A)(B)(C) は図中の同色の矢印を指します。

Step1

水酸化物イオンの付加(四面体中間体の生成)

試薬・条件OH⁻(NaOH)

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この段のあと
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水酸化物イオンの酸素O7の孤立電子対結合に使われず、原子の上に対で残っている非共有の電子対。求核剤として攻める手になる。が、電子の薄いカルボニル炭素と酸素が二重結合したC=O構造。炭素が電子不足で、求核剤に攻められる。炭素C1(酸素に電子を引かれてδ⁺)を攻撃して新しいO7–C1結合を作る(A)。玉突きでC1=O3のπ電子が酸素O3へ降りてアルコキシドアルコールのO–Hが外れ、酸素上に負電荷を持った陰イオン。強い求核剤・塩基である。O⁻になる(B)。C1はsp²からsp³へ変わり、–O⁻(O3)・–OH(O7)・–OEt(O4)・–CH3(C2)の4本が付いた四面体中間体カルボニルに求核剤が付き、炭素がsp3の四面体形になった中間体。になる。

Q.なぜカルボニル炭素が求核剤電子が余っていて、電子の足りない相手(求電子剤)へ電子対を差し出して結合をつくる化学種。に攻撃されるのか

A.カルボニル炭素C1は電気陰性な酸素O3との二重結合で電子を引かれ、δ⁺(電子が薄い求電子点)になっているから。負電荷をもつ強い求核剤OH⁻の孤立電子対が、この電子の薄い炭素を攻める。C=Oのπ結合が電子の逃げ場になるので、炭素への付加が起こりやすい(求核アシル置換カルボニルに求核剤が付いてから脱離基が抜け、正味で置換になる二段の型。の『付加』の段)。

Step2

エトキシドの脱離(カルボニル再生)

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この段のあと
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四面体中間体カルボニルに求核剤が付き、炭素がsp3の四面体形になった中間体。アルコキシドアルコールのO–Hが外れ、酸素上に負電荷を持った陰イオン。強い求核剤・塩基である。酸素O3の孤立電子対結合に使われず、原子の上に対で残っている非共有の電子対。求核剤として攻める手になる。が、C1–O3の間に二重結合を作りに降りてカルボニル炭素と酸素が二重結合したC=O構造。炭素が電子不足で、求核剤に攻められる。を再生する(A)。玉突きでC1–O4の結合電子がO4へ丸ごと移り、エトキシドイオンO4⁻が脱離する(B, 脱離矢印)。C1はsp³からsp²へ戻り、酢酸(CH3–C(=O)–OH)とエトキシドイオンに分かれる。

Q.なぜO3の電子対が押し出す形で脱離が起こるのか

A.四面体中間体反応の途中で一時的にできる、ある程度の寿命を持つ化学種。遷移状態とは別物である。の炭素上の負電荷(O3のO⁻)は不安定で、その電子対がC=Oを作り直そうとする駆動力になる。その二重結合再生の押し出しがC1–O4結合を切ってエトキシドを追い出す。カルボニル(C=O)が安定なので、四面体中間体はこの再生方向へ崩れやすい。

Step3

酸塩基反応(酢酸の脱プロトン・不可逆化)

試薬・条件エトキシド O4⁻

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生成物(完成)
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脱離してきたエトキシドO4の孤立電子対結合に使われず、原子の上に対で残っている非共有の電子対。求核剤として攻める手になる。が、酢酸のカルボキシル水素H8を引き抜く(C)。玉突きでO7–H8の結合電子が酸素O7へ戻り、酢酸イオン(CH3–COO⁻)になる(B)。エトキシドはプロトンを受け取って中性のエタノール(CH3CH2–OH)になる。この段で酢酸イオンとエタノールが確定し、反応が完結する。

Q.なぜこの酸塩基反応でけん化は不可逆になるのか

A.酢酸(pKa≈4.76)はエタノール(pKa≈16)よりはるかに強い酸なので、エトキシドが酢酸を奪い取る向きに平衡が大きく偏る(生成側へ10¹¹以上)。できた酢酸イオンは負電荷が2つの酸素に共鳴1つの構造式では描き切れない電子の広がりを、複数の極限構造で表す考え方。で分散して非常に安定で、もはやカルボニル炭素と酸素が二重結合したC=O構造。炭素が電子不足で、求核剤に攻められる。炭素を攻める求核剤電子が余っていて、電子の足りない相手(求電子剤)へ電子対を差し出して結合をつくる化学種。として働けない。だから四面体中間体カルボニルに求核剤が付き、炭素がsp3の四面体形になった中間体。を作り直す逆反応が起こらず、けん化は前段までの可逆性を打ち消して不可逆になる。これが酸触媒酸が反応を助け、最後には再生される仕組み。基質をプロトン化して反応しやすくする。エステル化(可逆平衡)との決定的な違い。

考察

なぜこう進むのか

原理
けん化は求核アシル置換カルボニルに求核剤が付いてから脱離基が抜け、正味で置換になる二段の型。(付加–脱離、四面体中間体カルボニルに求核剤が付き、炭素がsp3の四面体形になった中間体。経由)の代表例。求核剤電子が余っていて、電子の足りない相手(求電子剤)へ電子対を差し出して結合をつくる化学種。OH⁻がカルボニル炭素と酸素が二重結合したC=O構造。炭素が電子不足で、求核剤に攻められる。炭素C1(酸素に電子を引かれてδ⁺)を攻撃してsp³の四面体中間体反応の途中で一時的にできる、ある程度の寿命を持つ化学種。遷移状態とは別物である。をつくり、次にその中間体からより脱離しやすい基(エトキシド)が抜けてsp²のカルボニルが再生する。二段階(付加してから脱離)を踏むのがSN2的な一段置換との違いで、C1に一時的に4本の単結合が付いた四面体中間体を必ず経由する。
選択性
Q.四面体中間体が壊れるとき、なぜOH⁻(もとの求核剤)が戻らずエトキシドが抜けるのか
A.四面体中間体のC1には–O⁻(O3)・–OH(O7)・–OEt(O4)の3つの酸素が付いており、崩れるときは『より安定なアニオンとして抜けられる基』が脱離する。ここではO7がプロトンを持って中性の水酸基に戻る経路(=出発物へ逆戻り)と、O4がエトキシドとして抜ける経路(=前進)が競合する。エトキシドが抜ければ生成した酢酸がすぐ次段で脱プロトン分子が水素イオン(H⁺)を塩基に引き抜かれて手放す操作。プロトン化の逆である。されて安定な酢酸イオンに落ちるため、系全体としては前進側に引かれる。
駆動力
各素反応(付加・脱離)はそれ自体は可逆だが、最後の酸塩基段が反応を不可逆にする。生じた酢酸(pKa≈4.76)は、脱離してきたエトキシドの共役二重結合と単結合が交互に並び、π電子がひと続きに広がった状態。酸であるエタノール(pKa≈16)よりはるかに強い酸なので、エトキシドは酢酸をほぼ完全に脱プロトンする(平衡定数が10¹¹以上生成側)。生成した酢酸イオンは負電荷が2つの酸素に共鳴1つの構造式では描き切れない電子の広がりを、複数の極限構造で表す考え方。で非局在化して非常に安定で、もはや求核剤として四面体中間体を作り直せない。だからけん化は酸触媒酸が反応を助け、最後には再生される仕組み。基質をプロトン化して反応しやすくする。エステル化(Fischer)と違って逆に戻らない=『けん化』の名のとおり石鹸づくりで後戻りしない。
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中間体の鎖の連続連続 — 中間体の鎖が連続
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生成物の分子式C2H3O2-
PubChem 照合未照合 — キャッシュに結果なし
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