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有機化学リファレンス

カニッツァロ反応

カニッツァロ反応

カニッツァロ反応(ベンズアルデヒドの不均化):α水素をもたないベンズアルデヒド PhCHO は塩基性条件でエノラートを作れないため、濃NaOH 中で2分子が不均化(自己酸化還元)する。まず水酸化物イオン OH⁻ が一方のカルボニル炭素へ付加して四面体アルコキシド中間体になり、そのアルコキシドの C–H 結合がヒドリド(H⁻)としてもう1分子のベンズアルデヒドのカルボニル炭素へ移る(アルコキシドの酸素 O⁻ が電子を押し込むことでヒドリドが動ける)。ヒドリドを渡した側は安息香酸に酸化され、受け取った側はベンジルアルコキシドに還元される。最後に酸塩基でその安息香酸が脱プロトンして安息香酸ナトリウム(安息香酸イオン)になり、この不可逆なカルボキシラート生成が反応を駆動する。正味は 2 PhCHO + NaOH → PhCOO⁻Na⁺ + PhCH2OH(一方が酸化・他方が還元される不均化)。

全体式

出発物から生成物へ

+ +
機構 Mechanism

反応機構(段ごと)

巻矢印はA=攻撃 / B=脱離・π形成 / C=プロトン移動。本文の (A)(B)(C) は図中の同色の矢印を指します。

Step1

水酸化物イオンの付加(四面体アルコキシド生成)

試薬・条件濃NaOH(OH⁻)

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この段のあと
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ベンズアルデヒドのカルボニル炭素と酸素が二重結合したC=O構造。炭素が電子不足で、求核剤に攻められる。炭素C7は、電気陰性な酸素O8にC7=O8の電子を引かれて部分正電荷(δ+電気陰性度の差で結合の電子が偏り、δ+とδ-の部分電荷が生じること。)を帯びている。水酸化物イオンの酸素O10の孤立電子対結合に使われず、原子の上に対で残っている非共有の電子対。求核剤として攻める手になる。がそのC7を求核攻撃して新しいC7–O10結合をつくる(A)。玉突きでC7=O8のπ電子が酸素O8へ降りてアルコキシドアルコールのO–Hが外れ、酸素上に負電荷を持った陰イオン。強い求核剤・塩基である。(O⁻)になる(B)。C7はベンゼン環・水素H9・ヒドロキシO10・アルコキシO8を持つ sp3 の四面体炭素になり、四面体アルコキシド中間体反応の途中で一時的にできる、ある程度の寿命を持つ化学種。遷移状態とは別物である。 PhCH(O⁻)(OH) が生じる。この中間体のC7–H9結合が、次段でヒドリド電子対を伴った水素(H⁻)。還元剤からカルボニルの炭素へ移って還元する。として動く供与体になる。対イオンの Na⁺ は反応に関与しない傍観イオン。

Q.なぜ塩基はα脱プロトン分子が水素イオン(H⁺)を塩基に引き抜かれて手放す操作。プロトン化の逆である。でなくカルボニル付加から入るのか

A.引き抜けるα水素カルボニルの隣(α位)の炭素についた水素。塩基で外れやすく酸性を示す。が無いからである。ベンズアルデヒドのカルボニル炭素C7に付くのは水素H9とベンゼン環だけで、塩基が奪える sp3 のα–Hが存在しない。エノラートカルボニルの隣(α位)の水素が外れてでき、炭素と酸素に負電荷が広がった陰イオン。化の道が塞がれているため、濃い OH⁻ は次に反応性の高いカルボニル炭素C7へ直接付加する。この付加でできる四面体アルコキシドの酸素O8上の負電荷が、次段でC7–H9をヒドリドとして押し出す『力の源』になる=第1段はヒドリド供与体を仕込む段である。

Step2

ヒドリド移動(C7→C18・不均化の山場)

試薬・条件もう1分子の PhCHO(律速のヒドリド移動)

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この段のあと
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四面体アルコキシドアルコールのO–Hが外れ、酸素上に負電荷を持った陰イオン。強い求核剤・塩基である。中間体反応の途中で一時的にできる、ある程度の寿命を持つ化学種。遷移状態とは別物である。のアルコキシド酸素O8⁻は電子が豊富で、その孤立電子対結合に使われず、原子の上に対で残っている非共有の電子対。求核剤として攻める手になる。が C7=O8 のカルボニル炭素と酸素が二重結合したC=O構造。炭素が電子不足で、求核剤に攻められる。を再生する向きに電子を押し込む(B)。押されたぶん、玉突きでC7–H9の結合電子が丸ごとヒドリド電子対を伴った水素(H⁻)。還元剤からカルボニルの炭素へ移って還元する。(H⁻)としてもう1分子のベンズアルデヒドのカルボニル炭素C18へ移り、新しいC18–H9結合をつくる(A)。同時にC18=O19のπ電子が酸素O19へ降りてアルコキシド(O⁻)になる(B)。この一段で、ヒドリドを出したC7側はカルボニルを取り戻して安息香酸 PhC(=O)OH に酸化され、ヒドリドを受けたC18側はベンジルアルコキシド PhCH2O⁻ に還元される。C18はもとのアルデヒド水素H20と移ってきたヒドリドH9の2つの水素を持つ CH2 になる。O⁻ が電子を押し込むからこそC7–H9が『富電子のヒドリド』として動ける——ここが不均化の心臓部で、反応全体の律速段反応全体の速さを決める、いちばん遅い段階。ここの越えやすさが反応速度を支配する。でもある。

Q.なぜC7の C–H が、ふつうは動かないのにヒドリドとして飛べるのか

A.隣のアルコキシド酸素O8⁻が電子をC7へ押し戻すからである。孤立した C–H 結合の水素は本来ヒドリド(H⁻)として抜けにくいが、この炭素C7には負電荷を帯びたアルコキシO8が付いている。そのO8⁻が C7=O8 の二重結合を再生しようと電子対を押し込むと、C7上に電子が余り、C7–H9の結合電子ごと水素を『富電子のヒドリド』として外へ押し出せる。押し出されたヒドリドは、電子の薄い(δ+電気陰性度の差で結合の電子が偏り、δ+とδ-の部分電荷が生じること。)相手のカルボニル炭素C18に受け止められる。つまりヒドリド移動は、片側でO⁻がC=Oを作り直す動きと、反対側でC=Oが開いてO⁻になる動きが一直線につながった『玉突き』であり、負電荷の押し込みが無ければ起こらない。

Step3

酸塩基(安息香酸イオンとベンジルアルコールの生成・駆動段)

試薬・条件分子間プロトン移動(安息香酸 → 安息香酸イオン)

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生成物(完成)
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第2段で生じた2分子は、安息香酸 PhC(=O)O10–H11(強い酸)とベンジルアルコキシドアルコールのO–Hが外れ、酸素上に負電荷を持った陰イオン。強い求核剤・塩基である。 PhCH2–O19⁻(強い塩基)である。ベンジルアルコキシド酸素O19⁻の孤立電子対結合に使われず、原子の上に対で残っている非共有の電子対。求核剤として攻める手になる。が、安息香酸のカルボキシ水素H11を引き抜く(C)。玉突きでO10–H11の結合電子が酸素O10へ戻り(B)、安息香酸は脱プロトン分子が水素イオン(H⁺)を塩基に引き抜かれて手放す操作。プロトン化の逆である。して安息香酸イオン PhCOO⁻(負電荷がO8とO10の2つの酸素に共鳴1つの構造式では描き切れない電子の広がりを、複数の極限構造で表す考え方。で分散)になる。プロトンを受け取ったO19は中性の –OH になり、ベンジルアルコール PhCH2OH が完成する。安息香酸イオンは Na⁺ と塩(安息香酸ナトリウム)をつくる。安息香酸(pKa 約4)とベンジルアルコール(pKa 約15)の大きな酸性度差により、このプロトン移動は事実上不可逆で、反応全体をここへ引き切る。

Q.なぜこの酸塩基の段が反応全体を駆動するのか

A.共鳴安定なカルボキシラートが、深い熱力学的シンクになるからである。第2段までのカルボニル炭素と酸素が二重結合したC=O構造。炭素が電子不足で、求核剤に攻められる。付加とヒドリド電子対を伴った水素(H⁻)。還元剤からカルボニルの炭素へ移って還元する。移動はどちらも可逆で、それだけでは平衡が生成物側に偏る保証はない。だが第3段でできる安息香酸イオンは、負電荷が2つの酸素に均等に分かれた特別に安定な陰イオンで、その共役二重結合と単結合が交互に並び、π電子がひと続きに広がった状態。酸である安息香酸は pKa 約4=相手のベンジルアルコール(pKa 約15)よりはるかに強い酸である。強い酸から弱い酸へプロトンが動くこの酸塩基平衡は大きく右に偏り、実質的に戻らない。この不可逆なカルボキシラート生成が全平衡を生成物側へ引き寄せる駆動力であり、カニッツァロに濃い強塩基が要るのも、生じるカルボキシラートを塩として安定に固定するためである。

考察

なぜこう進むのか

原理
カニッツァロ反応は『付加 → ヒドリド電子対を伴った水素(H⁻)。還元剤からカルボニルの炭素へ移って還元する。移動 → 酸塩基』の3段で進む不均化である。第1段で水酸化物イオン OH⁻ の酸素O10がベンズアルデヒドのカルボニル炭素と酸素が二重結合したC=O構造。炭素が電子不足で、求核剤に攻められる。炭素C7を求核付加求核剤がカルボニルなどの二重結合に付き、π結合が開いて新しい結合ができる反応。し、C7=O8のπ電子が酸素O8へ降りて四面体アルコキシドアルコールのO–Hが外れ、酸素上に負電荷を持った陰イオン。強い求核剤・塩基である。 PhCH(O⁻)(OH) になる。山場の第2段では、そのアルコキシド酸素O8⁻の孤立電子対結合に使われず、原子の上に対で残っている非共有の電子対。求核剤として攻める手になる。が C7=O8 を再生する向きに電子を押し込み、玉突きで C7–H9 の結合電子が丸ごとヒドリド(H⁻)としてもう1分子のベンズアルデヒドのカルボニル炭素C18へ渡り、C18=O19のπ電子がO19へ降りる。この一連で、ヒドリドを出した分子はカルボニルを取り戻して安息香酸(C7が酸化=+I→+III相当)になり、ヒドリドを受けた分子はベンジルアルコキシド(C18が還元)になる。第3段で安息香酸のカルボキシ水素H11がベンジルアルコキシド酸素O19へ移り、共鳴1つの構造式では描き切れない電子の広がりを、複数の極限構造で表す考え方。安定な安息香酸イオンとベンジルアルコールに落ち着く。酸化剤も還元剤も外から入れず、同じ官能基の2分子が互いに電子をやり取りするのが不均化の本質である。
選択性
Q.なぜアルドール(エノラートカルボニルの隣(α位)の水素が外れてでき、炭素と酸素に負電荷が広がった陰イオン。経路)ではなく不均化に進むのか
A.ベンズアルデヒドにはα水素カルボニルの隣(α位)の炭素についた水素。塩基で外れやすく酸性を示す。が無いからである。カルボニル炭素C7に付いているのは水素H9とベンゼン環(芳香族炭素c1)だけで、α位にあたる sp3 の C–H が存在しない(環のC–Hは芳香族で酸性度も反応性も別物)。塩基が引き抜けるα水素が無い以上、エノラートを作れず、アルドール付加・縮合の経路は入口で閉じている。この経路が塞がれた基質に濃い強塩基(OH⁻)が作用すると、OH⁻ はエノラート化の代わりにカルボニルへ直接付加し、生じた四面体アルコキシドがヒドリド供与体としてはたらいて不均化(カニッツァロ)に進む。逆に言えば、α水素をもつアルデヒド(アセトアルデヒド等)は塩基性条件では速いアルドールが優先し、カニッツァロは α水素の無いアルデヒド(ベンズアルデヒド・ホルムアルデヒド・ピバルアルデヒド等)に特徴的な反応になる。
駆動力
駆動力は最終段の不可逆な酸塩基平衡にある。第2段までは可逆な付加・ヒドリド移動だが、第3段でできる安息香酸(カルボキシ基の pKa 約4.2)は、相手のベンジルアルコール(O–H の pKa 約15)よりはるかに強い酸である。この大きな酸性度差(ΔpKa 約11)のため、安息香酸はベンジルアルコキシドへ確実にプロトンを渡し、共鳴で負電荷を2つの酸素に分散した安定な安息香酸イオン(カルボキシラート)になる。この深い熱力学的シンクが平衡を生成物側へ引き切り、反応を一方向に完結させる。だからカニッツァロには『α水素が無いこと』に加えて『濃い強塩基』が要る——カルボキシラートを塩として固定できる十分な塩基があって初めて、この駆動が効く。
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矢印⇄結合変化の整合整合 — fail=0 / check=0(全3段)
電荷保存保存 — 全段で電荷保存
中間体の鎖の連続連続 — 中間体の鎖が連続
生成物への到達(内部整合)到達 — 看板の生成物が機構中で実際に生成
生成物の分子式C7H8O
PubChem 照合緑・完全一致(CID 244)
phenylmethanol
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