シアノヒドリン生成
シアノヒドリン生成(ベンズアルデヒド):ベンズアルデヒド PhCHO + HCN(NaCN に微酸性条件を組み合わせて系中で発生させる)→ マンデロニトリル PhCH(OH)CN。まずシアン化物イオン CN⁻ の炭素がカルボニル炭素を求核付加して C–C 結合を1本つくり、アルコキシドになる。次にそのアルコキシドが HCN からプロトンを奪って中性の –OH になり、同時に CN⁻ が再生する(触媒サイクル)。各段は可逆で全体は平衡反応。カルボニル炭素に炭素求核剤をつなぐことで炭素骨格が1個伸びる増炭反応であり、生成物はヒドロキシ基とシアノ(ニトリル)基を同じ炭素にもつシアノヒドリン。
巻矢印はA=攻撃 / B=脱離・π形成 / C=プロトン移動。本文の (A)(B)(C) は図中の同色の矢印を指します。
試薬・条件CN⁻(NaCN・微酸性条件)
ベンズアルデヒドのカルボニル炭素と酸素が二重結合したC=O構造。炭素が電子不足で、求核剤に攻められる。炭素C1は、電気陰性度結合の電子対を引き寄せる強さの尺度。大きい原子ほど電子を引き、分極を生む。の強い酸素O2に電子を引かれてδ+電気陰性度の差で結合の電子が偏り、δ+とδ-の部分電荷が生じること。(電子が薄い)になっている。ここへシアン化物イオン [C≡N]⁻ の炭素C10(負電荷=孤立電子対結合に使われず、原子の上に対で残っている非共有の電子対。求核剤として攻める手になる。をもつカルバニオン炭素の上に負電荷を持つ化学種で、強い求核剤・塩基としてはたらく。等価体の求核点)が攻めかかり、新しいC10–C1結合をつくる(A)。玉突きで、C1=O2のπ電子が酸素O2へ降りていく(B)。その結果、平面だったカルボニル炭素C1が四本足(sp3)に組み変わり、酸素O2が負電荷を帯びたアルコキシドアルコールのO–Hが外れ、酸素上に負電荷を持った陰イオン。強い求核剤・塩基である。 PhCH(O⁻)CN になる。負電荷は電気陰性度の強い酸素O2の上に乗るので安定。この一手でC1–C10というC–C結合が新しく1本でき、炭素骨格が1個伸びる。
Q.なぜシアン化物イオンは窒素でなく炭素の側で、しかもカルボニル炭素を攻めるのか
A.シアン化物イオン [C≡N]⁻ では負電荷(孤立電子対)が炭素C10の上に乗っており、炭素の側が電子の余った求核点になる(窒素N11は電気陰性度が高く、電子を抱え込んで手放しにくい)。だから攻めに出るのは炭素C10。攻める相手がカルボニル炭素C1なのは、C1が酸素O2に電子を引かれてδ+(電子が薄い)=求電子点だから。電子の余った炭素C10と電子の薄い炭素C1が結びつくと両者の電子の過不足が解消され、押し出された C1=O2 のπ電子は、電気陰性度の強い酸素O2の上に負電荷として安定に逃げる。炭素の上に負電荷を残すより、はるかに都合のよい落としどころ。
試薬・条件HCN
第1段でできたアルコキシドアルコールのO–Hが外れ、酸素上に負電荷を持った陰イオン。強い求核剤・塩基である。の酸素O2⁻は負電荷をもち、プロトンを受け取りたがっている。ここでシアン化水素 HCN(H12–C13)が弱い酸としてはたらく。O2の孤立電子対結合に使われず、原子の上に対で残っている非共有の電子対。求核剤として攻める手になる。が HCN のプロトンH12を奪って新しいO2–H12結合をつくり(C)、同時に玉突きで、C13–H12の結合電子が丸ごと炭素C13へ戻ってシアン化物イオン [C13≡N14]⁻ が再生する(B)。O2は中性の–OHになり、シアノヒドリンであるマンデロニトリル PhCH(OH)CN が完成する。ここで再生したCN⁻は第1段で消費したものと同量で、次のベンズアルデヒドをまた攻撃できる=シアン化物イオンは反応の前後で量が変わらない触媒反応を速めるが、自身は反応の前後で消費されず再生される物質。として回る。
Q.なぜプロトン源がHCNなのか。第1段で使ったCN⁻はどうなるのか
A.第1段で消えたCN⁻は、この第2段でそっくり再生する。アルコキシドO2⁻がHCNからプロトンH12だけを抜き取ると、H12の結合電子は炭素C13に置いていかれ、残ったC13–N14はカルバニオン炭素の上に負電荷を持つ化学種で、強い求核剤・塩基としてはたらく。 [C≡N]⁻ に戻るからだ。したがってCN⁻は反応の前後で量が変わらない触媒で、微量あれば繰り返しベンズアルデヒドを攻撃できる。プロトン源をHCNにできるのは、NaCNに微酸性条件を組み合わせると系中でCN⁻とHCNが共存する緩衝状態になるため。CN⁻が無ければ求核剤電子が余っていて、電子の足りない相手(求電子剤)へ電子対を差し出して結合をつくる化学種。が無くて第1段が進まず、逆に強い酸にしてHCNだけにすると求核剤CN⁻が枯れて付加が起きない。両方が適度に居る条件が要る。
同じ中間体・対になる選択性・連続する変換など、位置の近い反応です。反応マップで全体の中での位置も見られます。
原子の保存・電子の流れ・生成物への到達を機械で検証しています。妥当な経路は複数ありえます。
| 矢印⇄結合変化の整合 | 整合 — fail=0 / check=0(全2段) |
|---|---|
| 電荷保存 | 保存 — 全段で電荷保存 |
| 中間体の鎖の連続 | 連続 — 中間体の鎖が連続 |
| 生成物への到達(内部整合) | 到達 — 看板の生成物が機構中で実際に生成 |
| 生成物の分子式 | C8H7NO |
| PubChem 照合 | 緑・完全一致(CID 10758) 2-hydroxy-2-phenylacetonitrile |