Moleculus
有機化学リファレンス

オキシム生成

オキシム生成

オキシム生成:シクロヘキサノン(O=C1CCCCC1)+ ヒドロキシルアミン NH2OH → シクロヘキサノンオキシム(C=N–OH)+ H2O。ヒドロキシルアミンの窒素がカルボニル炭素へ求核付加してカルビノールアミン(HO–C–NH–OH)になり、酸触媒でそのOHがプロトン化されて水として脱離し、N–ヒドロキシイミニウム(C=N⁺(H)–OH)を経て、窒素上のプロトンが抜けて C=N–OH(オキシム)ができる付加–脱水縮合。既公開のイミン(シッフ塩基)生成とまったく同じ PADPED 骨格(付加→プロトン移動→OHのプロトン化→水の脱離→脱プロトン)で進み、求核剤が第一級アミンからヒドロキシルアミンに変わっただけである。シクロヘキサノンは左右対称なので、生じる C=N には E/Z の区別が無い。

全体式

出発物から生成物へ

+
機構 Mechanism

反応機構(段ごと)

巻矢印はA=攻撃 / B=脱離・π形成 / C=プロトン移動。本文の (A)(B)(C) は図中の同色の矢印を指します。

Step1

求核付加(ヒドロキシルアミンの窒素が中性ケトンを攻撃)

試薬・条件ヒドロキシルアミン NH2OH

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この段のあと
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ヒドロキシルアミンの窒素N8の孤立電子対結合に使われず、原子の上に対で残っている非共有の電子対。求核剤として攻める手になる。が、シクロヘキサノンのカルボニル炭素と酸素が二重結合したC=O構造。炭素が電子不足で、求核剤に攻められる。炭素C2をそのまま攻撃して新しいN8–C2結合を作る(A)。玉突きでC2=O1のπ電子が酸素O1へ降りてアルコキシドアルコールのO–Hが外れ、酸素上に負電荷を持った陰イオン。強い求核剤・塩基である。(O⁻)になる(B)。N8は結合を4本もって正電荷を帯び、O1は負電荷を帯びる双性イオン(四面体中間体カルボニルに求核剤が付き、炭素がsp3の四面体形になった中間体。)ができる。窒素はヒドロキシルアミンの二つの孤立電子対(N上とO上)のうちN側で攻める——酸素より窒素のほうが求核性が高く、隣接する酸素のα効果で一段強められているためである。

Q.なぜ酸素でなく窒素が攻めるのか。そしてなぜ先にカルボニルをプロトン化分子が水素イオン(H⁺、プロトン)を1つ受け取る操作。酸性条件でよく起こる。しなくてよいのか

A.窒素N8の孤立電子対は酸素より分極電気陰性度の差で結合の電子が偏り、δ+とδ-の部分電荷が生じること。しやすく求核性が高いうえ、隣の酸素O11の孤立電子対によるα効果でさらに反応性が上がっているので、中性のカルボニルにそのまま付加できる。酸で先にカルボニルを活性化しなくても付加が進むのはこのためで、酸の出番はこの後の脱水(OHの脱離基結合の電子対を持ったまま分子から抜けていく原子や原子団。抜けたあと安定なほど良い脱離基となる。化)にある。ただし窒素は遊離の H2N–OH でいなければ攻められない——強酸で N がプロトン化されると求核性を失うので、そこがpH依存の一方の綱引きになる(step3のwhyへ続く)。

Step2

プロトン移動(中性カルビノールアミン)

試薬・条件H2O(プロトンの受け渡し)

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この段のあと
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双性イオンのアルコキシドアルコールのO–Hが外れ、酸素上に負電荷を持った陰イオン。強い求核剤・塩基である。O1⁻が水のプロトンH31を奪い(C)、O30–H31の結合電子が酸素O30へ戻る(B)。それと連動して、生じた水(塩基役)の孤立電子対結合に使われず、原子の上に対で残っている非共有の電子対。求核剤として攻める手になる。がアンモニウム部N8⁺上のプロトンH9を引き抜き(C)、N8–H9の結合電子が窒素N8へ戻って中性になる(B)。水を介したプロトンの受け渡しで、正負の電荷が打ち消し合い、電荷の無い中性のカルビノールアミン(HO–C–NH–OH=四面体中間体カルボニルに求核剤が付き、炭素がsp3の四面体形になった中間体。)になる。窒素N8には引き抜かれずに残ったH10が1本ついている。

Step3

OHのプロトン化(脱離基化・酸触媒)

試薬・条件H3O⁺(酸触媒)

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この段のあと
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カルビノールアミンの炭素側のヒドロキシO1が、酸H3O⁺のプロトンH41を受け取る(C)。玉突きでO40–H41の結合電子が酸素O40へ戻って中性の水になる(B)。炭素についていた–O1Hが–O1H2⁺(良い脱離基結合の電子対を持ったまま分子から抜けていく原子や原子団。抜けたあと安定なほど良い脱離基となる。=水)に変わり、脱水の準備が整う。プロトン化分子が水素イオン(H⁺、プロトン)を1つ受け取る操作。酸性条件でよく起こる。するのは炭素側のOHであって、窒素についた側のO11–Hではない——抜けて安定なC=N⁺を作れるのは炭素–酸素結合のほうだからである。

Q.なぜここで酸が要るのか。そして、その酸がpH依存の綱引きの片側になるのはどういうことか

A.–OH のままでは脱離基として悪すぎて抜けないので、酸でプロトン化して –OH2⁺ にし、中性の水として抜けられるようにする——これが酸触媒酸が反応を助け、最後には再生される仕組み。基質をプロトン化して反応しやすくする。の仕事で、酸が無ければ(塩基性側では)脱水が進まずカルビノールアミンで足踏みする。ところが step1 では、酸が強すぎるとヒドロキシルアミンの窒素がプロトン化されて求核性を失い、そもそも付加が起きない。つまり『付加のために酸を弱く/脱水のために酸を強く』という相反する要求がぶつかり、両方がそこそこ進む中程度のpH(オキシムでおよそpH4〜5)で全体の速度が山なりの最大になる。これがオキシム・セミカルバゾン生成に共通する速度–pHの山型プロファイルの正体である。

Step4

水の脱離(N–ヒドロキシイミニウム生成)

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この段のあと
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窒素N8の孤立電子対結合に使われず、原子の上に対で残っている非共有の電子対。求核剤として攻める手になる。がN8–C2の間に二重結合を作りに行き(A)、玉突きでC2–O1⁺の結合電子が酸素O1へ降りて水が脱離する(B, 脱離矢印)。C2=N8⁺ のN–ヒドロキシイミニウムイオン(窒素にH10と–O11Hがついた C=N⁺)になる。ここで抜けた水が、全体の反応式でできる H2O である。窒素は隣接炭素の正電荷を C=N⁺ として共鳴1つの構造式では描き切れない電子の広がりを、複数の極限構造で表す考え方。安定化できるので、良い脱離基結合の電子対を持ったまま分子から抜けていく原子や原子団。抜けたあと安定なほど良い脱離基となる。化した水(O1H2⁺)を押し出して脱水できる。

Q.なぜ窒素の電子対が水を押し出せるのか

A.窒素は隣接炭素にできる正電荷を C=N⁺(イミニウム)として自分の電子対で共鳴安定化できるからである。だから step3 で良い脱離基(水=O1H2⁺)に変えておけば、窒素がその電子対でC=N⁺を作りながら水を押し出して脱水できる。窒素上に置換基としてOH(O11H)が乗っているのがイミンとの違いで、これがそのままオキシムのヒドロキシ基になる。

Step5

脱プロトン(オキシム完成・酸触媒の再生)

試薬・条件H2O(塩基)

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生成物(完成)
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系内の塩基(水O50)の孤立電子対結合に使われず、原子の上に対で残っている非共有の電子対。求核剤として攻める手になる。が、N–ヒドロキシイミニウムの窒素N8⁺上のプロトンH10を引き抜き(C)、N8–H10の結合電子が窒素N8へ戻る(B)。窒素は C2=N8 二重結合と–O11H、そして孤立電子対をもつ中性の状態に落ち着き、C2=N8–O11H(オキシム)=シクロヘキサノンオキシムが完成する。プロトンを受け取った水はヒドロニウムイオン H3O⁺(O50⁺)として再生し、step3で消費した酸が等量ぶん戻る=酸は触媒反応を速めるが、自身は反応の前後で消費されず再生される物質。としてはたらき、プロトン収支は系内で閉じる。窒素上に残るのはH(イミン)ではなく–OH(オキシム)である。

考察

なぜこう進むのか

原理
オキシム生成はイミン生成と同じ『付加–脱水縮合』の骨格(PADPED)で進む。すなわち、求核剤電子が余っていて、電子の足りない相手(求電子剤)へ電子対を差し出して結合をつくる化学種。(ここではヒドロキシルアミンの窒素)がカルボニル炭素と酸素が二重結合したC=O構造。炭素が電子不足で、求核剤に攻められる。炭素C2へ付加してカルビノールアミン(四面体中間体カルボニルに求核剤が付き、炭素がsp3の四面体形になった中間体。 HO–C–NH–OH)を作り(付加)、系内のプロトン移動で中性化し、酸がそのOHをプロトン化分子が水素イオン(H⁺、プロトン)を1つ受け取る操作。酸性条件でよく起こる。して脱離基結合の電子対を持ったまま分子から抜けていく原子や原子団。抜けたあと安定なほど良い脱離基となる。(水)に変え(プロトン化)、水が抜けてC2=N8⁺のN–ヒドロキシイミニウムになり(脱離)、最後に窒素上のプロトンが抜けて中性の C2=N8–OH(オキシム)に落ち着く(脱プロトン分子が水素イオン(H⁺)を塩基に引き抜かれて手放す操作。プロトン化の逆である。)。イミンとの唯一の違いは求核剤で、第一級アミン R–NH2 の代わりに H2N–OH を使う。窒素上に残る置換基が H でなく OH になるだけで、C=N を作るところまで機構は共通である。
選択性
Q.ヒドロキシルアミン H2N–OH には N と O の二つの求核部位があるのに、なぜ窒素N8が炭素を攻めるのか。また N2H4 だとどうなるのか
A.攻めるのは窒素N8である。酸素よりも窒素の孤立電子対結合に使われず、原子の上に対で残っている非共有の電子対。求核剤として攻める手になる。のほうが電気陰性度結合の電子対を引き寄せる強さの尺度。大きい原子ほど電子を引き、分極を生む。が低く分極電気陰性度の差で結合の電子が偏り、δ+とδ-の部分電荷が生じること。しやすくて求核性が高いうえ、ヒドロキシルアミンでは隣に酸素の孤立電子対が並ぶ『α効果』が効いて、窒素の求核性が塩基性から予想されるより一段強くなる(HOMOが持ち上がり、遷移状態結合が切れかけ・できかけの、エネルギーが最も高い一瞬の状態。取り出すことはできない。の溶媒和も緩む)。だからカルボニル炭素へはN8が付加し、生成物は C=N–OH(オキシム)になる。求核剤をヒドラジン H2N–NH2 に替えれば同じ機構でヒドラゾン C=N–NH2 が、置換ヒドラジン(2,4-ジニトロフェニルヒドラジン等)なら対応するヒドラゾン誘導体ができる——窒素求核剤の縮合という同じ型の仲間である。
駆動力
Q.この縮合の速度がpHに強く依存するのはなぜか。強酸でも塩基性でも遅く、中程度のpHで最速になる理由は
A.二つの段が逆向きにpHを要求して綱引きになるからである。前半の求核付加求核剤がカルボニルなどの二重結合に付き、π結合が開いて新しい結合ができる反応。(step1)は、ヒドロキシルアミンが遊離の中性形 H2N–OH でいるときだけ進む。酸が強すぎると窒素がプロトン化されて H3N⁺–OH になり、孤立電子対を失って求核性がゼロになる(NH3OH⁺ の共役二重結合と単結合が交互に並び、π電子がひと続きに広がった状態。酸pKaはおよそ6)。一方、後半の脱水(step3のOHプロトン化→step4の脱離)は酸がOHをプロトン化して初めて進むので、酸が弱すぎる(塩基性)と脱水が止まってカルビノールアミンで足踏みする。つまり『求核剤を活かすには酸を弱く、脱水を進めるには酸を強く』という相反する要求があり、その折り合い点=中程度のpH(オキシムやセミカルバゾンではおよそpH4〜5)で速度が山なりの最大になる。pHを振ると律速段反応全体の速さを決める、いちばん遅い段階。ここの越えやすさが反応速度を支配する。も入れ替わり、高pH側では脱水が、低pH側では付加が律速になる。
Q.この反応はどこへ向かう入口なのか
A.オキシムは水を失う縮合で安定な C=N を作り、生じた水を除けば平衡は生成物側へ寄る。生成したシクロヘキサノンオキシムは、強酸で処理するとベックマン転位結合や原子団が分子内で移動して、炭素骨格などが組み替わる過程。を起こし、C=N–OH が転位して環が一つ大きい環状アミド(ε-カプロラクタム=七員環ラクタム)になる。これはナイロン6の原料モノマーであり、この単純な縮合が工業的にはナイロン合成の入口につながっている。
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矢印⇄結合変化の整合整合 — fail=0 / check=0(全5段)
電荷保存保存 — 全段で電荷保存
中間体の鎖の連続連続 — 中間体の鎖が連続
生成物への到達(内部整合)到達 — 看板の生成物が機構中で実際に生成
生成物の分子式C6H11NO
PubChem 照合緑・完全一致(CID 7517)
N-cyclohexylidenehydroxylamine
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