メタンのラジカル塩素化
メタンのラジカル塩素化(連鎖反応):メタン CH₄ + 塩素 Cl₂ が光(hv)のもとで反応し、クロロメタン CH₃Cl + 塩化水素 HCl を与える。塩素分子が光で塩素ラジカルに割れて始まり(開始)、水素引き抜きと塩素引き抜きが交互に回って生成物をつくり続け(成長)、ラジカルどうしがぶつかって連鎖が止まる(停止)。開始・成長・停止の3相からなるラジカル連鎖機構の教科書標準例である。
巻矢印はA=攻撃 / B=脱離・π形成 / C=プロトン移動 / F=単電子移動(片羽=電子1個)。本文の (A)(B)(C)(F) は図中の同色の矢印を指します。
試薬・条件hv(光)
ラジカル不対電子を1つ持つ、反応性の高い化学種。電荷を持たないことが多い。反応では電子が1個ずつ動く。だから矢印も、2電子をまとめて運ぶ両羽の巻矢印(A/B/C)ではなく、羽が片側だけの片羽(fishhook)矢印を使い、1本が電子1個の移動を表す(ほかのページで使う2電子の巻矢印と対になる別記法である)。光(hv)のエネルギーを吸ったCl₂で、Cl1–Cl2の結合が均等に割れる(ホモリシス)。Cl1–Cl2の結合電子2個が片羽矢印2本で1個ずつ両方の塩素に分かれ、不対電子を1個ずつ持つ塩素ラジカルCl1・とCl2・ができる。これが連鎖の点火である。
なぜイオン(Cl⁺/Cl⁻)ではなく2個のラジカルに割れるのか。Cl₂は同種原子どうしの無極性結合なので、片側に電子2個を寄せてCl⁺とCl⁻をつくるヘテロリシスは電荷分離のコストが高い。電子を1個ずつ均等に分けるホモリシスのほうがはるかに低エネルギーで済み、光1粒子ぶんのエネルギーで到達できる。だから開始はイオンではなくラジカルを生む。
試薬・条件CH₄
塩素ラジカル不対電子を1つ持つ、反応性の高い化学種。電荷を持たないことが多い。Cl1・が、メタンのC2–H6結合から水素原子H6を引き抜く。C2–H6の結合電子2個は片羽矢印2本で1個ずつに分かれ、片方はH6とともに新しいH6–Cl1結合(塩化水素HCl)をつくりに動き、もう片方はC2に残る。あわせてCl1の不対電子が片羽矢印でその同じH6–Cl1結合へ入り、結合は電子2個で満たされる。H6を失ったC2は不対電子を1個持つメチルラジカルCH₃・(C2が不対電子を持つ)になる。ラジカルCl1・が消える一方で新たにラジカルC2・が生まれるので、連鎖は途切れない。
なぜこの段が成長全体の律速か。強いC–H結合を切る水素引き抜きは吸熱的でエネルギーの山が高く、塩素化ではここが最も遅い。したがって反応全体の速度は(多置換基質では位置選択性反応が起こりうる複数の位置のうち、特定の位置に偏って進む性質。も)この段が支配する。
試薬・条件Cl₂
メチルラジカル不対電子を1つ持つ、反応性の高い化学種。電荷を持たないことが多い。C2・が塩素分子Cl7–Cl8を攻め、塩素原子Cl7を奪う。C2の不対電子が片羽矢印で新しいC2–Cl7結合へ入る。同時にCl7–Cl8の結合電子2個も片羽矢印2本で1個ずつに分かれ、片方はそのC2–Cl7結合を埋めてもう1個ぶんとし、もう片方はCl8に残る。こうしてクロロメタンCH₃Cl(C2–Cl7)ができ、Cl8は不対電子を1個持つ塩素ラジカルCl8・として再生する。段2で消えたCl・がここで生き返り、段2→段3が繰り返し回る(連鎖の車輪)。
Q.なぜいちど火がつくと連鎖が自走するのか
A.成長は2段で1組をなす。段2(Cl・+CH₄→HCl+CH₃・)と段3(CH₃・+Cl₂→CH₃Cl+Cl・)を足し合わせると、両辺のCH₃・とCl・が相殺し、正味はCH₄+Cl₂→CH₃Cl+HClという目的の反応だけが残る。ラジカルは消費と再生が釣り合い、反応を運び続ける担い手(触媒反応を速めるが、自身は反応の前後で消費されず再生される物質。のようなもの)としてはたらく。だから開始で1個のCl・をつくれば、あとは光を足さなくても成長サイクルが何千回も自己回転して大量の生成物を生む。
試薬・条件(ラジカル濃度が上がったとき)
メチルラジカル不対電子を1つ持つ、反応性の高い化学種。電荷を持たないことが多い。C2・と塩素ラジカルCl8・が出会うと、互いの不対電子が片羽矢印1本ずつで新しいC2–Cl8結合に入り、対をつくってクロロメタンCH₃Clになる。ラジカルどうしの再結合は不対電子を消すだけで新しいラジカルを生まないので、連鎖の車輪が1本止まる(停止段)。停止はこのCl・+CH₃・→CH₃Clのほか、Cl・+Cl・→Cl₂、CH₃・+CH₃・→C₂H₆(エタン。微量の副生成物)の3通りが起こりうる。
なぜ停止は連鎖全体から見ると稀か。ラジカルの定常濃度は非常に低いので、ラジカルが豊富な基質(CH₄やCl₂)と出会う成長のほうが、低濃度どうしのラジカルが互いに出会う停止よりずっと頻繁に起こる。だから開始1回あたり成長が多数回まわり、停止はときおり連鎖を1本畳むにとどまる。
同じ中間体・対になる選択性・連続する変換など、位置の近い反応です。反応マップで全体の中での位置も見られます。
原子の保存・電子の流れ・生成物への到達を機械で検証しています。妥当な経路は複数ありえます。
| 矢印⇄結合変化の整合 | 整合 — fail=0 / check=0(全4段) |
|---|---|
| 電荷保存 | 保存 — 全段で電荷保存 |
| 中間体の鎖の連続 | 連続 — 中間体の鎖が連続 |
| 生成物への到達(内部整合) | 到達 — 看板の生成物が機構中で実際に生成 |
| 生成物の分子式 | CH3Cl |
| PubChem 照合 | 緑・完全一致(CID 6327) chloromethane |