Moleculus
有機化学リファレンス

メタンのラジカル塩素化

メタンのラジカル塩素化

メタンのラジカル塩素化(連鎖反応):メタン CH₄ + 塩素 Cl₂ が光(hv)のもとで反応し、クロロメタン CH₃Cl + 塩化水素 HCl を与える。塩素分子が光で塩素ラジカルに割れて始まり(開始)、水素引き抜きと塩素引き抜きが交互に回って生成物をつくり続け(成長)、ラジカルどうしがぶつかって連鎖が止まる(停止)。開始・成長・停止の3相からなるラジカル連鎖機構の教科書標準例である。

全体式

出発物から生成物へ

+
機構 Mechanism

反応機構(段ごと)

巻矢印はA=攻撃 / B=脱離・π形成 / C=プロトン移動 / F=単電子移動(片羽=電子1個)。本文の (A)(B)(C)(F) は図中の同色の矢印を指します。

Step1

開始:Cl₂のホモリシス(光解離)

試薬・条件hv(光)

12
この段のあと
12

ラジカル不対電子を1つ持つ、反応性の高い化学種。電荷を持たないことが多い。反応では電子が1個ずつ動く。だから矢印も、2電子をまとめて運ぶ両羽の巻矢印(A/B/C)ではなく、羽が片側だけの片羽(fishhook)矢印を使い、1本が電子1個の移動を表す(ほかのページで使う2電子の巻矢印と対になる別記法である)。光(hv)のエネルギーを吸ったCl₂で、Cl1–Cl2の結合が均等に割れる(ホモリシス)。Cl1–Cl2の結合電子2個が片羽矢印2本で1個ずつ両方の塩素に分かれ、不対電子を1個ずつ持つ塩素ラジカルCl1・とCl2・ができる。これが連鎖の点火である。

なぜイオン(Cl⁺/Cl⁻)ではなく2個のラジカルに割れるのか。Cl₂は同種原子どうしの無極性結合なので、片側に電子2個を寄せてCl⁺とCl⁻をつくるヘテロリシスは電荷分離のコストが高い。電子を1個ずつ均等に分けるホモリシスのほうがはるかに低エネルギーで済み、光1粒子ぶんのエネルギーで到達できる。だから開始はイオンではなくラジカルを生む。

Step2

成長①:水素引き抜き(Cl・がC–Hを奪う)

試薬・条件CH₄

123456
この段のあと
123456

塩素ラジカル不対電子を1つ持つ、反応性の高い化学種。電荷を持たないことが多い。Cl1・が、メタンのC2–H6結合から水素原子H6を引き抜く。C2–H6の結合電子2個は片羽矢印2本で1個ずつに分かれ、片方はH6とともに新しいH6–Cl1結合(塩化水素HCl)をつくりに動き、もう片方はC2に残る。あわせてCl1の不対電子が片羽矢印でその同じH6–Cl1結合へ入り、結合は電子2個で満たされる。H6を失ったC2は不対電子を1個持つメチルラジカルCH₃・(C2が不対電子を持つ)になる。ラジカルCl1・が消える一方で新たにラジカルC2・が生まれるので、連鎖は途切れない。

なぜこの段が成長全体の律速か。強いC–H結合を切る水素引き抜きは吸熱的でエネルギーの山が高く、塩素化ではここが最も遅い。したがって反応全体の速度は(多置換基質では位置選択性反応が起こりうる複数の位置のうち、特定の位置に偏って進む性質。も)この段が支配する。

Step3

成長②:塩素引き抜き(CH₃・がCl₂を奪う・Cl・再生)

試薬・条件Cl₂

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この段のあと
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メチルラジカル不対電子を1つ持つ、反応性の高い化学種。電荷を持たないことが多い。C2・が塩素分子Cl7–Cl8を攻め、塩素原子Cl7を奪う。C2の不対電子が片羽矢印で新しいC2–Cl7結合へ入る。同時にCl7–Cl8の結合電子2個も片羽矢印2本で1個ずつに分かれ、片方はそのC2–Cl7結合を埋めてもう1個ぶんとし、もう片方はCl8に残る。こうしてクロロメタンCH₃Cl(C2–Cl7)ができ、Cl8は不対電子を1個持つ塩素ラジカルCl8・として再生する。段2で消えたCl・がここで生き返り、段2→段3が繰り返し回る(連鎖の車輪)。

Q.なぜいちど火がつくと連鎖が自走するのか

A.成長は2段で1組をなす。段2(Cl・+CH₄→HCl+CH₃・)と段3(CH₃・+Cl₂→CH₃Cl+Cl・)を足し合わせると、両辺のCH₃・とCl・が相殺し、正味はCH₄+Cl₂→CH₃Cl+HClという目的の反応だけが残る。ラジカルは消費と再生が釣り合い、反応を運び続ける担い手(触媒反応を速めるが、自身は反応の前後で消費されず再生される物質。のようなもの)としてはたらく。だから開始で1個のCl・をつくれば、あとは光を足さなくても成長サイクルが何千回も自己回転して大量の生成物を生む。

Step4

停止:ラジカルの再結合(CH₃・+Cl・)

試薬・条件(ラジカル濃度が上がったとき)

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生成物(完成)
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メチルラジカル不対電子を1つ持つ、反応性の高い化学種。電荷を持たないことが多い。C2・と塩素ラジカルCl8・が出会うと、互いの不対電子が片羽矢印1本ずつで新しいC2–Cl8結合に入り、対をつくってクロロメタンCH₃Clになる。ラジカルどうしの再結合は不対電子を消すだけで新しいラジカルを生まないので、連鎖の車輪が1本止まる(停止段)。停止はこのCl・+CH₃・→CH₃Clのほか、Cl・+Cl・→Cl₂、CH₃・+CH₃・→C₂H₆(エタン。微量の副生成物)の3通りが起こりうる。

なぜ停止は連鎖全体から見ると稀か。ラジカルの定常濃度は非常に低いので、ラジカルが豊富な基質(CH₄やCl₂)と出会う成長のほうが、低濃度どうしのラジカルが互いに出会う停止よりずっと頻繁に起こる。だから開始1回あたり成長が多数回まわり、停止はときおり連鎖を1本畳むにとどまる。

考察

なぜこう進むのか

原理
この反応は電子が2個ずつ動くイオン反応ではなく、電子が1個ずつ動くラジカル不対電子を1つ持つ、反応性の高い化学種。電荷を持たないことが多い。反応である。結合が均等に割れて(ホモリシス)両側の原子がそれぞれ不対電子を1個ずつ持つラジカルになる。だから電子の動きは、2電子を運ぶ両羽の巻矢印ではなく、1電子だけを運ぶ片羽(fishhook)矢印で描く。ラジカルは反応すると別のラジカルを生むので、いったん火がつくと、開始で生まれた1個のラジカルが成長サイクルを何千回も回す連鎖になる。1回の開始から多数の生成物ができるのが連鎖反応の要点である。
選択性
メタンは水素が4個とも等価なので位置選択性反応が起こりうる複数の位置のうち、特定の位置に偏って進む性質。の問題は起きない(どのC–Hを切っても同じクロロメタンになる)。ただしCl₂を過剰にすると、生成したCH₃Clの残りのC–Hもさらに塩素化され、CH₂Cl₂・CHCl₃・CCl₄まで多置換が進む。モノ塩素化で止めたいならメタンを大過剰にする。ここではモノ塩素化=クロロメタンで代表させて示す。
駆動力
全体としては正味発熱で進むが、成長の2段はΔHの符号が逆である。成長①の水素引き抜き(Cl・+CH₄→CH₃・+HCl)は、強いC–H結合(約439 kJ/mol)を切って、それよりわずかに弱いH–Cl結合(約431 kJ/mol)をつくるため、ΔHはおよそ+8 kJ/molのわずかな吸熱になり、これが成長のなかで最も遅い律速段反応全体の速さを決める、いちばん遅い段階。ここの越えやすさが反応速度を支配する。になる。いっぽう成長②の塩素引き抜き(CH₃・+Cl₂→CH₃Cl+Cl・)は、弱いCl–Cl結合(約242 kJ/mol)を切って、それより強いC–Cl結合(約350 kJ/mol)をつくるため、ΔHはおよそ−108 kJ/molと強く発熱する。したがって『各段が発熱的』なのではなく、吸熱の①を発熱の②が上回り、2段の和としておよそ−100 kJ/molの正味発熱になる(発熱の実体は②)。結合の強弱は個別でなく和で見るのが正しい。切れる2結合(弱いCl–ClとC–H)より、できる2結合の和のほうが大きいから正味発熱になる。できるC–Clはむしろ切れるC–Hより弱く、C–H→C–Clの入れ替えだけなら不利だが、できる2結合のうち最も強いH–Clができるぶんがそれを上回る。切れるCl–Clがそもそも弱いことは、段1で光がこれを容易に割って連鎖を開始できる根拠でもある。こうして各段はラジカルを消費すると同時に必ず次のラジカルを生むので、いったん火がつけば連鎖は途切れず回り続ける。開始に要る光は、最初にごく少数のラジカルをつくる点火であって量論的には要らない(触媒反応を速めるが、自身は反応の前後で消費されず再生される物質。的に少量の光で大量の生成物ができる)。
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検算 Verified

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検算とは何か — 保証していないことも

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矢印⇄結合変化の整合整合 — fail=0 / check=0(全4段)
電荷保存保存 — 全段で電荷保存
中間体の鎖の連続連続 — 中間体の鎖が連続
生成物への到達(内部整合)到達 — 看板の生成物が機構中で実際に生成
生成物の分子式CH3Cl
PubChem 照合緑・完全一致(CID 6327)
chloromethane
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