Moleculus
有機化学リファレンス

アルドール縮合

アルドール縮合

アルドール縮合(脱水・E1cb):自己アルドール付加で得た 3-ヒドロキシブタナール(β-ヒドロキシアルデヒド=アルドール)を、塩基(OH⁻)・加熱の条件で脱水し、α,β-不飽和アルデヒドであるクロトンアルデヒド((E)-2-ブテナール)へ導く反応。付加体の続きにあたる2段で、まず塩基がα水素を引き抜いてエノラートをつくり、次に E1cb 機構でβ位のヒドロキシ基が OH⁻ として脱離して C=C 二重結合ができる。α–H とβ–OH が失われる正味は水1分子の脱離(脱水)で、付加(C–C 結合形成)と脱水を合わせて『アルドール縮合』と呼ぶ。

全体式

出発物から生成物へ

+
機構 Mechanism

反応機構(段ごと)

巻矢印はA=攻撃 / B=脱離・π形成 / C=プロトン移動。本文の (A)(B)(C) は図中の同色の矢印を指します。

Step1

エノラート生成(α水素の脱プロトン)

試薬・条件OH⁻(NaOH)・加熱

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この段のあと
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アルドール付加でできた 3-ヒドロキシブタナールの、カルボニル炭素と酸素が二重結合したC=O構造。炭素が電子不足で、求核剤に攻められる。C1に隣り合うα炭素カルボニルの隣(α位)の炭素についた水素。塩基で外れやすく酸性を示す。C3の水素H7は酸性。塩基 OH⁻(O9)の孤立電子対結合に使われず、原子の上に対で残っている非共有の電子対。求核剤として攻める手になる。がH7を引き抜き(C)、C3–H7の結合電子がC1–C3のあいだに二重結合をつくりに動く(B)。同時に玉突きでC1=O2のπ電子が酸素O2へ降りてO⁻になる(B)。負電荷がα炭素C3と電気陰性なO2に共鳴1つの構造式では描き切れない電子の広がりを、複数の極限構造で表す考え方。で分散したエノラートカルボニルの隣(α位)の水素が外れてでき、炭素と酸素に負電荷が広がった陰イオン。が生じ、水が遊離する。付加体のときと同じ脱プロトン分子が水素イオン(H⁺)を塩基に引き抜かれて手放す操作。プロトン化の逆である。だが、ここではβ位C4にヒドロキシ基O5が残っているのが次段の脱離の鍵になる。

Q.α位(C3)の脱プロトンで機構が進むのはなぜか。β位のヒドロキシ基O5の水素H8も塩基で外れうるのに

A.α炭素C3のC–Hが酸性なのは、H7が抜けたあとの負電荷が C1=O2 を巻き込み、電気陰性なカルボニル酸素O2まで共鳴で広がれるから。O上へ電荷を逃がせるぶん共役塩基酸が水素イオン(H⁺)を1つ手放したあとに残る化学種。安定なほど元の酸は強酸である。(エノラート)が安定になり、α–H(pKa 約17)は末端メチル(C6)の水素よりずっと酸性になる——C6の水素を抜いても共鳴で安定化されない裸のカルバニオン炭素の上に負電荷を持つ化学種で、強い求核剤・塩基としてはたらく。しか残らないので、そちらは実際に抜けない。ただし『共鳴が効かないから抜けない』でひとくくりにできるのは C–H だけだ。β位のヒドロキシ基O5–H8(第二級アルコール、pKa 約16)は別扱いになる:アルコキシドアルコールのO–Hが外れ、酸素上に負電荷を持った陰イオン。強い求核剤・塩基である。は共鳴を必要としないれっきとした陰イオンなので、塩基性条件では O5–H8 も実際に可逆的に脱プロトンされる。それでも機構を先へ運ぶのはα脱プロトンのほうだ。O5–H8 を失って生じるアルコキシドはただの酸素陰イオンで次に進む道をもたないのに対し、α脱プロトンで生じるエノラートだけが C3 にカルバニオン性をもち、次段の E1cb 脱離を担える生産的中間体反応の途中で一時的にできる、ある程度の寿命を持つ化学種。遷移状態とは別物である。になるからである。つまりα–H が効くのは『O–H が抜けないから』ではなく、生じるエノラートが唯一の生産的中間体だからで、『塩基でアルコールは脱プロトンされない』と読むのは誤り。

Step2

E1cb 脱離(β-OH の脱離・共役化)

試薬・条件加熱(E1cb・β-OH が OH⁻ として脱離)

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生成物(完成)
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エノラートカルボニルの隣(α位)の水素が外れてでき、炭素と酸素に負電荷が広がった陰イオン。は O2⁻–C1=C3 ↔ O2=C1–C3⁻ の共鳴1つの構造式では描き切れない電子の広がりを、複数の極限構造で表す考え方。で、α炭素カルボニルの隣(α位)の炭素についた水素。塩基で外れやすく酸性を示す。C3にカルバニオン炭素の上に負電荷を持つ化学種で、強い求核剤・塩基としてはたらく。の電子密度をもつ。この電子対を使って E1cb の脱離が進む:まず酸素O2⁻の孤立電子対結合に使われず、原子の上に対で残っている非共有の電子対。求核剤として攻める手になる。がC1=O2カルボニル炭素と酸素が二重結合したC=O構造。炭素が電子不足で、求核剤に攻められる。を再生する向きに動き(B)、玉突きでC1=C3のπ電子がC3–C4のあいだに新しい二重結合をつくりに移り(B)、押し出されるようにC4–O5結合が切れてヒドロキシ基O5が OH⁻ として脱離する(B)。こうしてカルボニルC1=O2 と C3=C4 が共役二重結合と単結合が交互に並び、π電子がひと続きに広がった状態。した α,β-不飽和アルデヒド、クロトンアルデヒド((E)-2-ブテナール、共役面で置換基が離れたトランス体が主)ができる。脱離した OH⁻ で塩基が再生し、第1段で失ったα–H(H7)と合わせて水1分子ぶんが脱離した(脱水)。

Q.なぜ E1cb で進むのか(E1 のカルボカチオン炭素の上に正電荷を持つ、電子が足りず不安定な中間体。置換基の多い3級ほど安定になる。・E2 の協奏ではなく)

A.E1cb は『先に脱プロトン分子が水素イオン(H⁺)を塩基に引き抜かれて手放す操作。プロトン化の逆である。でカルバニオン(conjugate base)をつくり、次に脱離基結合の電子対を持ったまま分子から抜けていく原子や原子団。抜けたあと安定なほど良い脱離基となる。が抜ける』2段機構。この基質でこれが選ばれるのは、他2経路のコストが高いから。E1(先にβ-OH が抜けてカチオンを残す)は、生じるカルボカチオンが不安定なうえ、塩基性条件で劣悪な脱離基 OH⁻ が自発的に外れることもなく不利。E2(α–H の引き抜きと OH⁻ 脱離が協奏)も、劣悪な脱離基 OH⁻ を協奏で押し出すのはエネルギー的に高い。対して E1cb は、α–H がカルボニルに隣接して酸性なので塩基で容易に外れ、生じたカルバニオンがエノラートとしてカルボニル酸素O2に負電荷を逃がして安定に存在できる。この安定なエノラート中間体反応の途中で一時的にできる、ある程度の寿命を持つ化学種。遷移状態とは別物である。を経由できることが、遅い脱離の前にカルバニオンを先につくる2段機構を成立させる。要は『エノラートが安定に存在できるから、不安定なカチオンも無理な協奏も避けて2段で進める』。

Q.脱水が進む駆動力は何か

A.生成物が C=C と C=O を共役させた α,β-不飽和カルボニルになること。付加体では孤立したカルボニルしかないが、脱水で生じる C3=C4 ともとの C1=O2 が単結合C1–C3を挟んで並び、π 電子が非局在化して共役安定化を得る。この安定化に加え、加熱と系外へ抜ける水のエントロピーが、可逆なアルドール反応の平衡を縮合体側へ引き寄せる。穏和な条件で付加体に留まるものが、強塩基・加熱で共役した安定なエナールまで進むのはこのため。

考察

なぜこう進むのか

原理
アルドール付加体の脱水は、E1(先に脱離基結合の電子対を持ったまま分子から抜けていく原子や原子団。抜けたあと安定なほど良い脱離基となる。が抜けてカルボカチオン炭素の上に正電荷を持つ、電子が足りず不安定な中間体。置換基の多い3級ほど安定になる。)でも E2(塩基が引き抜くのと脱離が協奏)でもなく、E1cb(conjugate base 経由)で進む2段機構。第1段でカルボニル炭素と酸素が二重結合したC=O構造。炭素が電子不足で、求核剤に攻められる。C1に隣接するα炭素カルボニルの隣(α位)の炭素についた水素。塩基で外れやすく酸性を示す。C3の水素を塩基が引き抜き、生じたカルバニオン炭素の上に負電荷を持つ化学種で、強い求核剤・塩基としてはたらく。はカルボニル酸素O2上に負電荷を非局在化1つの構造式では描き切れない電子の広がりを、複数の極限構造で表す考え方。したエノラートカルボニルの隣(α位)の水素が外れてでき、炭素と酸素に負電荷が広がった陰イオン。として安定に存在できる。第2段で、そのエノラートのα炭素C3のカルバニオン電子対が C3=C4 二重結合をつくりに動き、玉突きでβ炭素C4上のヒドロキシ基O5が OH⁻ として脱離する。カルボニルC1=O2 と新たな C3=C4 が単結合C1–C3を挟んで共役二重結合と単結合が交互に並び、π電子がひと続きに広がった状態。した α,β-不飽和アルデヒドが生成物になる。
選択性
Q.なぜ E1cb(2段)で進むのか。E1・E2 ではだめなのか
A.3つの経路のコストを比べると E1cb だけが低い。(1) E1 は先にβ–OH がカルボカチオンを残して抜ける経路だが、生じるのが不安定な1級(あるいは2級)カチオンで、しかも塩基性・非酸性条件で OH⁻ が自発的に外れることもない(OH⁻ は劣悪な脱離基)ので不利。(2) E2 は塩基がα–H を引き抜くのと同時にβ–OH が協奏的複数の結合の切断と生成が、中間体を経ずに一度に同時に起こるさま。に抜ける経路だが、その協奏で劣悪な脱離基 OH⁻ を押し出すのはエネルギー的に高い。(3) E1cb は、α–H がカルボニルに隣接して酸性なので塩基で容易に外れ、生じるカルバニオンがエノラートとしてカルボニル酸素に電荷を逃がして安定に存在できる。この安定な共役塩基酸が水素イオン(H⁺)を1つ手放したあとに残る化学種。安定なほど元の酸は強酸である。(エノラート)を中間体反応の途中で一時的にできる、ある程度の寿命を持つ化学種。遷移状態とは別物である。として溜められることが、遅い脱離段の前にカルバニオンを先に作ってしまう E1cb を成立させ、他2経路より有利にする。選択性の本体は『安定なエノラートが中間体として存在できること』で、基質がカルボニルのα,β位に脱離基(β-OH)をもつ配置がこの2段脱離を可能にしている。
駆動力
脱水の駆動力は、生成物が C=C と C=O を共役させた α,β-不飽和カルボニルになること。付加体(β-ヒドロキシアルデヒド)は孤立したカルボニルしかもたないが、脱水すると新しい C3=C4 二重結合ともとのカルボニル C1=O2 が単結合を挟んで並び、π 電子が系全体に非局在化して共役安定化を得る。この共役による安定化に加え、加熱条件と系外へ抜ける水のエントロピーが、可逆なアルドール反応の平衡を縮合体側へ引き寄せる。だからアルドール反応は穏和な条件では付加体(3-ヒドロキシブタナール)で止まるが、強塩基・加熱では脱水まで進んで共役した安定なエナール(クロトンアルデヒド)が最終生成物になる。塩基 OH⁻ は第1段で消費され、第2段で脱離基として OH⁻ が戻るので触媒反応を速めるが、自身は反応の前後で消費されず再生される物質。としてはたらく。
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検算 Verified

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検算とは何か — 保証していないことも

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矢印⇄結合変化の整合整合 — fail=0 / check=0(全2段)
電荷保存保存 — 全段で電荷保存
中間体の鎖の連続連続 — 中間体の鎖が連続
生成物への到達(内部整合)到達 — 看板の生成物が機構中で実際に生成
生成物の分子式C4H6O
PubChem 照合緑・完全一致(CID 447466)
(E)-but-2-enal
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