Moleculus
有機化学リファレンス

E1 Elimination (Zaitsev)

E1脱離

E1脱離(酸触媒による脱水・ザイツェフ則):2-メチル-2-ブタノール (CH3)2C(OH)CH2CH3 を濃硫酸 H2SO4 とともに加熱すると脱水が起こり、2-メチル-2-ブテン (CH3)2C=CHCH3 が主生成物として得られる。強酸がまず OH をプロトン化して良い脱離基(水)に変え、水が抜けて3級カルボカチオンができ(律速)、最後に隣(β位)の水素が塩基に奪われて二重結合ができる、3段階の脱離反応。より置換の多い(安定な)アルケンが主生成物になる(ザイツェフ則)。

全体式

出発物から生成物へ

+
基本形 General Form

反応の基本形

R₂C(OH)–CHR'₂ → R₂C=CR'₂ + H₂O

強酸・加熱(脱水)。イオン化が律速脱離(E1)

脱離基がまず抜けてカルボカチオンができ(律速)、続いてβ水素が抜けて多置換アルケン(ザイツェフ則)ができる二段階脱離である。

機構 Mechanism

反応機構(段ごと)

巻矢印はA=攻撃 / B=脱離・π形成 / C=プロトン移動。本文の (A)(B)(C) は図中の同色の矢印を指します。

Step1

OHのプロトン化(脱離基への活性化)

試薬・条件H3O⁺(H2SO4 由来の酸)

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この段のあと
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アルコールの酸素O6の孤立電子対結合に使われず、原子の上に対で残っている非共有の電子対。求核剤として攻める手になる。が、強酸から供給されたプロトンH8(ヒドロニウムO7⁺H8 上のプロトン)を奪う(C)。同時にO7–H8の結合電子が酸素O7へ戻って中性の水になる(B)。O6は結合を1本余分にもつので酸素上に正電荷が乗ったオキソニウム酸素が結合を1本多く持ち、酸素上に正電荷が乗った陽イオン。プロトン化で生じる。プロトン化分子が水素イオン(H⁺、プロトン)を1つ受け取る操作。酸性条件でよく起こる。アルコール、–OH2⁺)になる。これで、そのままでは抜けないOH⁻が、中性の水として抜けられる良い脱離基結合の電子対を持ったまま分子から抜けていく原子や原子団。抜けたあと安定なほど良い脱離基となる。へと活性化された。

Q.なぜアルコールを脱水するのにまず酸でプロトン化する必要があるのか

A.OH基が抜けるとしたら水酸化物イオンOH⁻になるが、OH⁻は塩基性が強く不安定で脱離基として抜けない。酸がO6をプロトン化して–OH2⁺にすると、抜けるときは中性で安定な水(H2O)として出ていける。脱離基は抜けたあとが安定なほど良く、水はその共役二重結合と単結合が交互に並び、π電子がひと続きに広がった状態。酸H3O⁺が強酸である=とても抜けやすい良い脱離基。プロトン化はこの『抜けない基を抜ける基へ変える』ための活性化。

Step2

水の脱離(カルボカチオン生成・律速)

試薬・条件—(加熱による自発的なC–O開裂)

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この段のあと
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C2とオキソニウム酸素が結合を1本多く持ち、酸素上に正電荷が乗った陽イオン。プロトン化で生じる。酸素O6の結合電子が、まるごと酸素O6の側へ移ってC2–O6結合が切れる(B, 脱離矢印)。O6は電子対を持って中性の水(H2O)として抜け、C2は電子が足りない3級カルボカチオン炭素の上に正電荷を持つ、電子が足りず不安定な中間体。置換基の多い3級ほど安定になる。(C⁺)になる。C–O結合が切れてイオンができるこの段が、山を越えるのに一番エネルギーの要る律速段反応全体の速さを決める、いちばん遅い段階。ここの越えやすさが反応速度を支配する。。加熱するのはこの段を越えさせ、生じた水を逃がして平衡を前へ押すため。

Q.なぜこのイオン化がこの分子で起こりやすいのか(律速なのに進む理由)

A.抜ける側が中性で安定な水という良い脱離基結合の電子対を持ったまま分子から抜けていく原子や原子団。抜けたあと安定なほど良い脱離基となる。であることに加え、残る炭素C2が3級カルボカチオン(正電荷の炭素に炭素が3つ付く)になれるから。まわりの炭素・水素が正電荷へ電子を押し出して支える(超共役隣のC–H結合の電子が、空いた軌道や正電荷へわずかに供与して安定化するはたらき。誘起効果電気陰性度の差が、σ結合を伝って電子を引っぱる・押す効果。)ので、3級>2級>1級の順に炭素陽イオンが安定になり、3級のここではイオン化の山を越えられる。1級アルコールならこの中間体反応の途中で一時的にできる、ある程度の寿命を持つ化学種。遷移状態とは別物である。が不安定すぎてE1では進みにくい。

Step3

β水素の脱プロトン(π形成・アルケン完成/酸の再生)

試薬・条件H2O(塩基)

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生成物(完成)
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塩基としてはたらく水O7の孤立電子対結合に使われず、原子の上に対で残っている非共有の電子対。求核剤として攻める手になる。が、カルボカチオン炭素の上に正電荷を持つ、電子が足りず不安定な中間体。置換基の多い3級ほど安定になる。の隣(β位)の炭素C3についた水素H11を奪う(C)。それと同時に、C3–H11の結合電子がC2とC3のあいだに降りてきてC2=C3の二重結合をつくり(B)、電子が足りなかったC2の正電荷が中和される。β水素はメチル(C1・C5)にもあるが、より置換の多い(安定な)2-メチル-2-ブテンを与えるC3側が抜けるのがザイツェフ則脱離反応では、二重結合の置換基が多い、より安定なアルケンが主生成物になる経験則。。プロトンを受け取った水はヒドロニウムH3O⁺として酸が再生し、触媒反応を速めるが、自身は反応の前後で消費されず再生される物質。サイクルが閉じる。生成物は三置換アルケンの 2-メチル-2-ブテン。

Q.カルボカチオンができたのに、なぜ求核剤電子が余っていて、電子の足りない相手(求電子剤)へ電子対を差し出して結合をつくる化学種。が付いて置換(SN1)にならず、β水素が抜けて脱離(E1)になるのか

A.同じ3級カルボカチオンから、求核剤(水)が正電荷の炭素C2に付けば置換(SN1でアルコールに戻る)、β水素が塩基に抜かれてπができれば脱離(E1でアルケン)になり、両者は競合する。だが3級炭素はまわりが混み合っていて求核剤が近づきにくいうえ、加熱条件は脱離(分子が増えてエントロピーが得な方向)を有利にする。さらに濃硫酸・脱水条件では水を系外へ逃がすので、平衡はアルケン生成側へ強く押される。だから3級アルコールの酸加熱では脱離(E1)が主経路になる。

考察

なぜこう進むのか

原理
E1は『脱離基結合の電子対を持ったまま分子から抜けていく原子や原子団。抜けたあと安定なほど良い脱離基となる。が抜けてカルボカチオン炭素の上に正電荷を持つ、電子が足りず不安定な中間体。置換基の多い3級ほど安定になる。ができる』段と『β水素が抜けて二重結合ができる』段が別々に起こる、二段階(多段階)の脱離反応。E2のように引き抜きと脱離が1段で同時に起こるのではなく、いったんカルボカチオン中間体反応の途中で一時的にできる、ある程度の寿命を持つ化学種。遷移状態とは別物である。をはさむのが違い。アルコールの OH はそのままでは脱離基にならない(OH⁻は不安定で抜けない)が、強酸 H2SO4プロトン化分子が水素イオン(H⁺、プロトン)を1つ受け取る操作。酸性条件でよく起こる。して –OH2⁺ にすると、中性の水として抜けられる良い脱離基に変わる。水が抜けてできる正電荷の炭素(カルボカチオン)が3級で安定なほど、この経路が有利になる。反応速度が脱離基をもつ基質の濃度だけに比例し塩基の濃度によらない(一次反応)ことが、E1(1は一分子的の意味)の名の由来。
選択性
Q.カルボカチオンの隣(β位)には水素が複数の炭素にあるのに、なぜ内側の CH2 側の水素が抜けて 2-メチル-2-ブテンが主生成物になるのか(ザイツェフ則脱離反応では、二重結合の置換基が多い、より安定なアルケンが主生成物になる経験則。
A.できる3級カルボカチオンは C2 に正電荷をもち、その両隣(β位)は2つのメチル(C1 と 2-メチル分枝 C5)と、内側の CH2(C3)。メチルの水素が抜けると末端に二重結合をもつ 2-メチル-1-ブテン(二重結合炭素に置換基が2つ=二置換)ができ、C3 の水素が抜けると内部に二重結合をもつ 2-メチル-2-ブテン(二重結合炭素に置換基が3つ=三置換)ができる。より置換の多いアルケンは、二重結合まわりの隣接 C–H 結合からの電子的な安定化(超共役隣のC–H結合の電子が、空いた軌道や正電荷へわずかに供与して安定化するはたらき。)と置換基の電子供与を多く受けて安定なので、こちらが主生成物になる=ザイツェフ則。三置換アルケンの 2-メチル-2-ブテンが主、二置換の 2-メチル-1-ブテンが副となる。
駆動力
強酸 H2SO4 が OH をプロトン化して抜けやすい水に変えること、律速のイオン化でできる炭素陽イオンが安定な3級カルボカチオンであること、π結合が1本できて系が安定化すること、そして加熱と『生じた水を系外へ逃がす』ことで平衡を脱離(アルケン生成)側へ押すことで反応が進む。酸はプロトン化で消費されるが最後の脱プロトン分子が水素イオン(H⁺)を塩基に引き抜かれて手放す操作。プロトン化の逆である。で等量ぶん再生されるので、触媒反応を速めるが、自身は反応の前後で消費されず再生される物質。としてはたらく。カルボカチオンを経るため、条件によっては転位結合や原子団が分子内で移動して、炭素骨格などが組み替わる過程。や置換(SN1)と競合しうるが、3級で加熱・強酸・脱水条件では脱離(E1)が主になる。
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