アルケンのエポキシ化
アルケンのエポキシ化(mCPBA・協奏):シクロヘキセン + mCPBA(m-クロロ過安息香酸)→ シクロヘキセンオキシド + m-クロロ安息香酸。過酸 Ar-CO-O-O-H の末端酸素が、電子豊富なアルケンの二重結合に片面から一度に渡り、三員環エーテル(エポキシド)ができる。バタフライ(蝶)型の遷移状態を通る協奏一段の反応で、酸素はアルケンと同じ面に付く(syn付加)ので二重結合の幾何が生成物に保持される立体特異的な酸化。
巻矢印はA=攻撃 / B=脱離・π形成 / C=プロトン移動。本文の (A)(B)(C) は図中の同色の矢印を指します。
試薬・条件mCPBA(m-クロロ過安息香酸)
過酸mCPBAの末端酸素O7(O–O–Hの外側の酸素)がアルケンに一度に渡る協奏一段。6本の矢印が同時に環状に動く。まず電子豊富なシクロヘキセンの二重結合C1=C2のπ電子が、弱いO7–O9結合で求電子的になっている末端酸素O7を攻撃して新しいC1–O7結合を作る(A)。同時に、O7の孤立電子対結合に使われず、原子の上に対で残っている非共有の電子対。求核剤として攻める手になる。がもう一方のアルケン炭素C2にも結合を作り(A)、O7がC1・C2の両方に橋を架けた三員環=エポキシドになる。玉突きで弱いO7–O9結合が切れ、その電子が隣のC10–O9間へ降りて新しいC10=O9二重結合(カルボン酸の新しいカルボニル炭素と酸素が二重結合したC=O構造。炭素が電子不足で、求核剤に攻められる。)を作る(B)。押し出されるように、もとのカルボニルC10=O11のπ電子は酸素O11へ移り(B)、電子の増えたO11の孤立電子対が末端酸素上のプロトンH8を受け取る(C)。抜けたO7–H8の結合電子はO7へ戻って孤立電子対になる(B)。結果、酸素O7がアルケンの同じ面へ一度に渡ってシクロヘキセンオキシドができ、過酸は中性のm-クロロ安息香酸(O11–H8のヒドロキシとC10=O9のカルボニル)として外れる。カチオン・ラジカル不対電子を1つ持つ、反応性の高い化学種。電荷を持たないことが多い。の中間体反応の途中で一時的にできる、ある程度の寿命を持つ化学種。遷移状態とは別物である。を経ないので、O7はC1・C2の片面から同時に付き、二重結合の幾何が保持される(syn付加)。
Q.なぜ中間体を経ず協奏一段で進み、酸素がアルケンの同じ面(syn)に付くのか。なぜ末端の酸素O7が渡るのか
A.遷移状態結合が切れかけ・できかけの、エネルギーが最も高い一瞬の状態。取り出すことはできない。がバタフライ(蝶)型で、過酸の面がアルケンのπ面にほぼ垂直に重なり、末端酸素O7が二重結合C1=C2の真上から両炭素に同時に近づくため。電子豊富なアルケンのHOMO(π)が過酸の弱いO7–O9結合のσ*(LUMO)へ電子を流し込みながら、O7がC1とC2に一度に結合するので、C1–O7とC2–O7は必ず同じ面にできる。開いたカルボカチオン炭素の上に正電荷を持つ、電子が足りず不安定な中間体。置換基の多い3級ほど安定になる。やラジカルの中間体を作らないから、途中でC–C結合が回転して幾何が崩れる余地がなく、アルケンのcis/transの関係がそのまま生成物に写る立体特異的出発物の立体配置に応じて、生成物の立体が一義的に決まる性質。反応になる(syn付加)。渡るのが末端酸素O7なのは、そこが弱いO7–O9結合の外側にあって最も求電子的な酸素であり、そこが抜けたあとに残る過酸側が、プロトンを受け取って安定な中性のm-クロロ安息香酸(共鳴1つの構造式では描き切れない電子の広がりを、複数の極限構造で表す考え方。安定なカルボキシル基)にきれいに落ち着けるから。シクロヘキセンでは環が二重結合をcisに固定しているので、片面付加でcis縮環のシクロヘキセンオキシド(アキラル重ね合わせられない鏡像の関係にある一対の分子。キラルな分子で生じる。なmeso体)が一義的にできる。
同じ中間体・対になる選択性・連続する変換など、位置の近い反応です。反応マップで全体の中での位置も見られます。
原子の保存・電子の流れ・生成物への到達を機械で検証しています。妥当な経路は複数ありえます。
| 矢印⇄結合変化の整合 | 整合 — fail=0 / check=0(全1段) |
|---|---|
| 電荷保存 | 保存 — 全段で電荷保存 |
| 中間体の鎖の連続 | 連続 — 中間体の鎖が連続 |
| 生成物への到達(内部整合) | 到達 — 看板の生成物が機構中で実際に生成 |
| 生成物の分子式 | C6H10O |
| PubChem 照合 | 緑・完全一致(CID 9246) 7-oxabicyclo[4.1.0]heptane |