Moleculus
有機化学リファレンス

エポキシド開環

エポキシド開環

エポキシド開環(塩基性・低障害側SN2):プロピレンオキシド(2-メチルオキシラン)+ナトリウムメトキシド NaOCH₃/CH₃OH → 1-メトキシ-2-プロパノール CH₃CH(OH)CH₂OCH₃。強い求核剤メトキシド CH₃O⁻ が、三員環エポキシドの立体障害が小さい無置換のCH₂側炭素を背面から攻撃し、C–O結合を開いてアルコキシドを生じ、続くワークアップのプロトン化で中性のアルコールになる2段の反応。内角が約60°まで押し込められた環の角ひずみの解放が駆動力で、ふつうのエーテルは求核剤で切れないのにエポキシドだけが開く。塩基性では立体障害の小さい炭素を攻めるが、酸性条件では位置選択が逆転して多置換側を攻める(詳細は別ページ)。

全体式

出発物から生成物へ

+
機構 Mechanism

反応機構(段ごと)

巻矢印はA=攻撃 / B=脱離・π形成 / C=プロトン移動。本文の (A)(B)(C) は図中の同色の矢印を指します。

Step1

低障害側への背面攻撃と協奏的開環(律速・一段・立体反転)

試薬・条件CH₃O⁻(メトキシド求核剤)

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この段のあと
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メトキシドの酸素O6の孤立電子対結合に使われず、原子の上に対で残っている非共有の電子対。求核剤として攻める手になる。が、エポキシドの立体障害が小さい無置換の炭素C3(メチル基のついたC2側より背面が空いている)を攻撃して新しいC3–O6結合をつくる(A)。それと同時に、玉突きでC3–O4の結合電子が丸ごと環の酸素O4へ移り、三員環が開いてO4がアルコキシドアルコールのO–Hが外れ、酸素上に負電荷を持った陰イオン。強い求核剤・塩基である。(O⁻)になる(B)。攻撃と開環が別々の段に分かれず1段で同時に起こる背面攻撃求核剤が脱離基のちょうど反対側から近づく攻め方。立体配置が反転する。SN2で、中間体反応の途中で一時的にできる、ある程度の寿命を持つ化学種。遷移状態とは別物である。はできない。SN2なので攻撃を受けるC3では傘が裏返るように立体が反転するが、C3は水素2個のCH₂で不斉中心重ね合わせられない鏡像の関係にある一対の分子。キラルな分子で生じる。ではないため、この基質では反転は生成物の立体としては現れない(不斉中心のC2は攻撃を受けず、もとの配置を保つ)。生じるのはアルコキシド CH₃CH(O⁻)CH₂OCH₃ で、メトキシドは無置換側のC3に入る。

Q.なぜ普通のエーテルは求核剤電子が余っていて、電子の足りない相手(求電子剤)へ電子対を差し出して結合をつくる化学種。で切れないのに、同じC–O結合をもつエポキシドは開くのか

A.ふつうのジアルキルエーテル(ジエチルエーテル等)のC–O結合は、切れてもアルコキシドという強塩基性で不安定な脱離基結合の電子対を持ったまま分子から抜けていく原子や原子団。抜けたあと安定なほど良い脱離基となる。しか出せないため、求核剤では実質切れない。エポキシドが例外なのは三員環の角ひずみにある。sp³の炭素・酸素は本来およそ109.5°の結合角を好むが、三員環では内角が約60°まで押し込められ、大きな角ひずみ(エポキシドでおよそ27 kcal/mol)が蓄えられている。求核剤がC3を攻めてC3–O4結合が開くと、このひずみが一気に解放されて安定化する。この歪み解放が、本来は悪い脱離基であるアルコキシド(開いてもO4は分子内につながったまま抜けきらない)を押し出す駆動力になり、穏やかな塩基性条件でも反応が進む。だから同じC–O結合でも、ひずんだエポキシドだけが求核剤で開く。

Step2

アルコキシドのプロトン化(ワークアップ・中性アルコール生成)

試薬・条件H₃O⁺(ワークアップ)

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生成物(完成)
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第1段の開環でできたアルコキシドアルコールのO–Hが外れ、酸素上に負電荷を持った陰イオン。強い求核剤・塩基である。(O4⁻)は強い塩基で、ワークアップで加える酸H₃O⁺からプロトンを奪う。O4の孤立電子対結合に使われず、原子の上に対で残っている非共有の電子対。求核剤として攻める手になる。がヒドロニウムのプロトンH8を引き抜いて新しいO4–H8結合をつくり(C)、同時に玉突きでO7–H8の結合電子が酸素O7へ戻って中性の水になる(B)。こうしてO4が中性のヒドロキシ基(–OH)になり、生成物の1-メトキシ-2-プロパノール CH₃CH(OH)CH₂OCH₃ ができる。この段は開環で生じた負電荷を中和するだけの後処理で、炭素骨格と位置選択反応が起こりうる複数の位置のうち、特定の位置に偏って進む性質。は第1段で決まっている。

考察

なぜこう進むのか

原理
塩基性条件のエポキシド開環は、求核剤電子が余っていて、電子の足りない相手(求電子剤)へ電子対を差し出して結合をつくる化学種。がエポキシドの炭素を攻めるSN2そのものである。強い求核剤メトキシド CH₃O⁻ は酸素上に負電荷をもち、三員環の電子が薄い炭素へ孤立電子対結合に使われず、原子の上に対で残っている非共有の電子対。求核剤として攻める手になる。を差し出して新しいC–O結合をつくる。ちょうどその裏側で、攻められた炭素と環酸素をつなぐC–O結合の電子が丸ごと酸素へ移り、三員環が開いてアルコキシドアルコールのO–Hが外れ、酸素上に負電荷を持った陰イオン。強い求核剤・塩基である。になる——攻めと開環が別々の段に分かれず1段でつり合う協奏過程である。ふつうのジアルキルエーテルと違ってこれが進むのは、三員環の角ひずみ(内角が約60°まで圧縮されている)が開環で一気に解放されるためで、そのひずみ解放が、本来は悪い脱離基結合の電子対を持ったまま分子から抜けていく原子や原子団。抜けたあと安定なほど良い脱離基となる。であるアルコキシド(切れても分子内につながったまま抜けきらない)を押し出す。生じたアルコキシドはワークアップでプロトン化分子が水素イオン(H⁺、プロトン)を1つ受け取る操作。酸性条件でよく起こる。され、中性の1-メトキシ-2-プロパノールになる。
選択性
Q.塩基性条件で求核剤はなぜ立体障害の小さい炭素を攻めるのか。酸性条件ではどう変わるのか
A.塩基性条件では、強い求核剤メトキシドが自分から炭素へ電子を差し出す純粋なSN2として進む。SN2の遷移状態結合が切れかけ・できかけの、エネルギーが最も高い一瞬の状態。取り出すことはできない。では求核剤・炭素・切れるC–O結合が一直線に並ぶため、置換基が少なく背面が空いている炭素(ここでは無置換のCH₂=C3)ほど攻めやすい。だから塩基性では立体(障害の小ささ)が位置を決め、求核剤は無置換側に入る。酸性条件では逆になる:先に環の酸素がプロトン化されて脱離能が上がり、C–O結合が伸びて遷移状態が正電荷を帯びる(SN1寄りの機構)。すると、より置換の多い炭素(ここではメチルのついたC2)のほうが正電荷を安定化できるので、弱い求核剤はむしろ多置換側を攻める。同じ基質でも塩基性と酸性で位置選択反応が起こりうる複数の位置のうち、特定の位置に偏って進む性質。が逆転するのがエポキシド開環の特徴である(酸性条件の詳細は別ページ)。
駆動力
C–O結合自体はふつう強く、切って開くのは一見不利に見える。それでもこの反応が塩基性・穏やかな条件で進むのは、三員環に蓄えられた角ひずみ(sp³炭素・酸素が好む約109.5°に対し、内角が約60°まで押し込められることによる、およそ27 kcal/mol のひずみエネルギー)が開環で一気に解放されるからである。これがふつうのエーテルとエポキシドの決定的な違いで、ひずみのないジアルキルエーテル(ジエチルエーテル等)は求核剤に対して不活性だが、エポキシドはひずみ解放という熱力学的な後押しと、それによって下がる活性化障壁のおかげで、悪い脱離基であるアルコキシドを出しながらでも開く。加えて、電子が余った強い求核剤メトキシドが電子の薄い炭素を攻めるという有機反応の基本の一手がそろっている。
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矢印⇄結合変化の整合整合 — fail=0 / check=0(全2段)
電荷保存保存 — 全段で電荷保存
中間体の鎖の連続連続 — 中間体の鎖が連続
生成物への到達(内部整合)到達 — 看板の生成物が機構中で実際に生成
生成物の分子式C4H10O2
PubChem 照合緑・完全一致(CID 7900)
1-methoxypropan-2-ol
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