Moleculus
有機化学リファレンス

ハロヒドリン生成

ハロヒドリン生成

ハロヒドリン生成(臭素水):プロペン CH2=CHCH3 + Br₂/H₂O → 1-ブロモ-2-プロパノール BrCH2CH(OH)CH3。二重結合が Br₂ を攻めて三員環のブロモニウムイオンをつくり、溶媒として大量にある水がより置換の多い炭素を裏側から攻めて環を開き、最後に脱プロトンして中性のブロモアルコールになる。ハロゲン(Br)は少置換炭素の側へ、ヒドロキシ基(OH)は多置換炭素の側へ付き(マルコフニコフ様の位置選択)、2つの基は反対の面から入るアンチ付加。

全体式

出発物から生成物へ

+ +
機構 Mechanism

反応機構(段ごと)

巻矢印はA=攻撃 / B=脱離・π形成 / C=プロトン移動。本文の (A)(B)(C) は図中の同色の矢印を指します。

Step1

ブロモニウムイオン生成(π電子による Br₂ への攻撃・律速)

試薬・条件Br₂

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この段のあと
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プロペンの二重結合 C1=C2 の π電子は電子が余っており求核的にはたらく。近づいた臭素分子 Br7–Br8 とはまず緩い π 錯体をつくり、続いて π電子が片方の臭素 Br7 を攻撃して新しい結合をつくる(A)。π電子が Br7 に差し込まれると玉突きで Br7–Br8 の結合電子が丸ごと Br8 へ移り、臭化物イオン Br8⁻ が脱離する(B, 脱離矢印)。攻撃した Br7 は二重結合の両炭素 C1・C2 に同時に橋を架け、正電荷を帯びた三員環=ブロモニウムイオンになる。開いたカルボカチオン炭素の上に正電荷を持つ、電子が足りず不安定な中間体。置換基の多い3級ほど安定になる。でなく橋のかかった環状イオンで止まるのが、この後の位置選択反応が起こりうる複数の位置のうち、特定の位置に偏って進む性質。と立体(背面攻撃求核剤が脱離基のちょうど反対側から近づく攻め方。立体配置が反転する。=アンチ付加)を決める鍵。C1=C2 は単結合 C1–C2 に下がる。この段が律速。

Q.なぜ普通のカルボカチオンでなく、三員環のブロモニウムイオンで止まるのか

A.臭素は孤立電子対結合に使われず、原子の上に対で残っている非共有の電子対。求核剤として攻める手になる。をもち、隣の陽イオン炭素へ電子対を差し出して結合を作れる。片方の炭素だけに臭素が付いて反対の炭素が裸の陽イオンになると不安定なので、Br7 の孤立電子対がその炭素にも結合して三員環の橋をかけ、正電荷を臭素と2つの炭素で分け合う。この橋がけのおかげで二重結合の片面が完全にふさがれ、次段で水が反対面からしか入れなくなる=アンチ付加の源になる。ただし三員環は非対称で、より置換の多い C2 側に正電荷(カルボカチオン性)が偏る——これが次段の位置選択を生む。

Step2

水による背面攻撃(ブロモニウム開環・マルコフニコフ様の位置選択・アンチ付加)

試薬・条件H₂O(溶媒)

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この段のあと
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ブロモニウムの三員環は非対称で、より置換の多い炭素 C2 の側に正電荷(カルボカチオン炭素の上に正電荷を持つ、電子が足りず不安定な中間体。置換基の多い3級ほど安定になる。性)が偏っている。溶媒として大量にある水 O9 の孤立電子対結合に使われず、原子の上に対で残っている非共有の電子対。求核剤として攻める手になる。が、この C2 を橋がけ臭素 Br7 の真裏(反対の面)から攻撃して新しい C2–O9 結合をつくる(A)。同時に C2–Br7 の結合電子が Br7 へ移って三員環が開き、Br7 は C1 に付いた中性の臭素になる(B)。水が C2(多置換側)に付くので、酸素は多置換炭素の側に入り、臭素は末端 C1(少置換側)に残る=マルコフニコフ様の位置選択反応が起こりうる複数の位置のうち、特定の位置に偏って進む性質。。攻撃は Br7 の背面から起こる(SN2 型の背面攻撃求核剤が脱離基のちょうど反対側から近づく攻め方。立体配置が反転する。)ためアンチ付加だが、新しくできる立体中心は C2 の一つだけなので、生成物はどちらの鏡像も等量できるラセミ体重ね合わせられない鏡像の関係にある一対の分子。キラルな分子で生じる。になる(シス・トランスの区別は出ない)。結合を3本もつことになった酸素 O9 はオキソニウム酸素が結合を1本多く持ち、酸素上に正電荷が乗った陽イオン。プロトン化で生じる。(R–OH₂⁺)として正電荷を帯びる。

Q.なぜ水は末端 C1 でなく、より置換の多い C2 を攻めるのか(位置選択)

A.ブロモニウムは非対称なイオンで、三員環の2本の C–Br 結合のうち、より置換の多い炭素 C2 側の結合のほうが伸びて弱くなり、C2 に正電荷(カルボカチオン性)が多く乗る。より置換の多い炭素ほど正電荷をよく安定化できるからで、C2 を開く遷移状態結合が切れかけ・できかけの、エネルギーが最も高い一瞬の状態。取り出すことはできない。は C–Br がより切れた SN1 的な性格を帯びる。求核剤電子が余っていて、電子の足りない相手(求電子剤)へ電子対を差し出して結合をつくる化学種。の水はその電子の薄い C2 を攻めるのが有利で、結果として –OH が多置換炭素 C2 に、Br が少置換炭素 C1 に付くマルコフニコフ様の向きになる。対称なブロモニウム(両炭素が同等)ならこの偏りは無く、位置選択も出ない。

Q.臭化物イオン Br⁻ も溶液中にいるのに、なぜ Br⁻ でなく水が C2 を攻めるのか

A.水は溶媒そのものとして圧倒的多数(純水でおよそ 55 mol/L)で存在するのに対し、1段目で生じた Br⁻ はごく薄い濃度でしかない。ブロモニウムを開く求核剤はこの濃度差で決まり、たとえ Br⁻ のほうが一つ一つは強い求核剤でも、数で勝る水が優先して C2 を攻める。もし Br⁻ が攻めれば生成物はジブロミドになるが、水を溶媒にするとハロヒドリン(ブロモアルコール)が主生成物になるのはこのため。

Step3

脱プロトン(オキソニウムの中和・アルコール完成)

試薬・条件H₂O(塩基)

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生成物(完成)
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2段目で酸素はプロトンを2つ抱えたオキソニウム酸素が結合を1本多く持ち、酸素上に正電荷が乗った陽イオン。プロトン化で生じる。 O9⁺(R–OH₂⁺)になっており、正電荷を帯びて酸性である。溶媒の水 O12 の孤立電子対結合に使われず、原子の上に対で残っている非共有の電子対。求核剤として攻める手になる。がこの酸性なプロトン H10 を引き抜き(C)、玉突きで O9–H10 の結合電子が丸ごと酸素 O9 へ戻る(B)。これで O9 は結合を2本もつ中性のヒドロキシ基 –O9H になり、中性の 1-ブロモ-2-プロパノール BrCH2–CH(OH)–CH3 が完成する。プロトンを受け取った水 O12 はヒドロニウムイオン H3O⁺ になる。臭素 Br7 は末端 C1 に、ヒドロキシ基は多置換炭素 C2 に付いており、これがハロヒドリン生成の生成物。

考察

なぜこう進むのか

原理
ハロヒドリン生成は、アルケンの臭素化と同じ入口をもつ求電子付加アルケンのπ電子が求電子剤を攻め、二重結合が開いて2つの基が付く反応。である。まず電子の余った二重結合(求核剤電子が余っていて、電子の足りない相手(求電子剤)へ電子対を差し出して結合をつくる化学種。)が無極性の Br₂ を攻め、片方の臭素が両炭素に橋を架けた三員環=ブロモニウムイオンになり、もう片方は Br⁻ として抜ける(律速)。臭素化と分かれるのはここから先で、環を開く求核剤が Br⁻ ではなく、溶媒として圧倒的多数の水になる。水は非対称なブロモニウムの、より置換の多い炭素を背面から攻めて環を開き、最後にオキソニウム酸素が結合を1本多く持ち、酸素上に正電荷が乗った陽イオン。プロトン化で生じる。(R–OH₂⁺)が脱プロトン分子が水素イオン(H⁺)を塩基に引き抜かれて手放す操作。プロトン化の逆である。して中性のブロモアルコールになる。全体として、電子が余った二重結合と、ブロモニウムという電子の足りない橋を、臭素と水が順に埋めていく反応。
選択性
Q.なぜ OH は多置換炭素の側に、Br は少置換炭素の側に付くのか(マルコフニコフ様の位置選択反応が起こりうる複数の位置のうち、特定の位置に偏って進む性質。
A.位置を決めるのは、ブロモニウムを開く段でどちらの炭素が正電荷を多く帯びるか。非対称なブロモニウムでは、より置換の多い炭素 C2 の側の C–Br 結合が伸びて弱くなり、C2 に正電荷(カルボカチオン炭素の上に正電荷を持つ、電子が足りず不安定な中間体。置換基の多い3級ほど安定になる。性)が偏る(多置換炭素ほど正電荷を安定化できるため)。C2 を開く遷移状態結合が切れかけ・できかけの、エネルギーが最も高い一瞬の状態。取り出すことはできない。は C–Br がより切れた SN1 的な性格を帯び、求核剤の水は電子の薄い C2 を攻めるのが有利になる。結果、–OH が多置換炭素 C2 に、Br が少置換炭素 C1 に付く。対称なブロモニウム(両炭素が同等)ならこの偏りは無く位置選択も出ない。位置はマルコフニコフ様・立体はアンチという二つの選択が、同じ橋がけブロモニウムの背面開環から同時に出てくるのがこの反応の勘所。
駆動力
電子の余った二重結合が求電子的な Br₂ を攻められること、抜ける Br⁻ が負電荷を安定に抱えられる良い脱離種であること、そして歪んだ三員環(ブロモニウム)が開いて安定な鎖状の生成物になることが反応を前へ進める。環を開く求核剤が Br⁻ でなく水になるのは化学的な優劣ではなく数の問題で、溶媒の水がおよそ 55 mol/L と圧倒的多数だから。最後のオキソニウムの脱プロトンは、余分な正電荷を溶媒の水へ逃がして中性の安定なアルコールに落ち着ける。
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矢印⇄結合変化の整合整合 — fail=0 / check=0(全3段)
電荷保存保存 — 全段で電荷保存
中間体の鎖の連続連続 — 中間体の鎖が連続
生成物への到達(内部整合)到達 — 看板の生成物が機構中で実際に生成
生成物の分子式C3H7BrO
PubChem 照合緑・完全一致(CID 29740)
1-bromopropan-2-ol
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