Moleculus
有機化学リファレンス

オゾン分解

オゾン分解

オゾン分解(還元的後処理):2-メチル-2-ブテン (CH3)2C=CHCH3 とオゾン O3 が反応し、炭素–炭素二重結合が完全に切断されてアセトン (CH3)2C=O とアセトアルデヒド CH3CHO の2つのカルボニル化合物になる反応。まずアルケンのπ結合とオゾンの1,3-双極子が協奏的な[3+2]環化付加で結びついて一次オゾニド(molozonide、1,2,3-トリオキソラン)ができ、これが不安定なため逆[3+2]で開裂してカルボニルオキシド(Criegee中間体)とカルボニルに割れる。両者が配向を変えてもう一度[3+2]で組み直すと二次オゾニド(ozonide、1,2,4-トリオキソラン)ができ、これを硫化ジメチル Me2S(または Zn/H2O)で還元的に後処理すると、余分な酸素が還元剤に取られてアセトンとアセトアルデヒドで止まる。もとの二重結合の両端の炭素がそれぞれカルボニル炭素になるので、生成物から二重結合の位置と置換パターンを逆算できる(構造決定に使える)。

全体式

出発物から生成物へ

+
機構 Mechanism

反応機構(段ごと)

巻矢印はA=攻撃 / B=脱離・π形成 / C=プロトン移動。本文の (A)(B)(C) は図中の同色の矢印を指します。

Step1

協奏的[3+2]環化付加(一次オゾニド=molozonide の生成)

試薬・条件O3(オゾン・低温)

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この段のあと
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2-メチル-2-ブテンのC1=C2二重結合とオゾンが、電子が環状に一周する協奏的複数の結合の切断と生成が、中間体を経ずに一度に同時に起こるさま。な[3+2]環化付加で結びつく。オゾンは1,3-双極子で、末端の酸素O8が負電荷をもつ求核末端、O6が反対の末端、O7が中央。(1)求核的な末端酸素O8の孤立電子対結合に使われず、原子の上に対で残っている非共有の電子対。求核剤として攻める手になる。がアルケンの一方の炭素C1を攻撃して新しいσ結合O8–C1をつくり(A)、(2)玉突きでC1=C2のπ電子がもう一方の末端酸素O6へ移って新しいσ結合C2–O6をつくり(A)、(3)続けてO6=O7のπ電子が中央のO7へ降りてO7の正電荷を中和する(B)。2本の新しいσ結合(O8–C1・C2–O6)が同時にでき、C1–C2は単結合になり、O8–O7–O6の三連酸素が橋を架けた五員環——一次オゾニド(molozonide、1,2,3-トリオキソラン)が閉じる。

Q.なぜ中間体反応の途中で一時的にできる、ある程度の寿命を持つ化学種。遷移状態とは別物である。(イオンやラジカル不対電子を1つ持つ、反応性の高い化学種。電荷を持たないことが多い。)を経ず、一段で環が閉じるのか

A.オゾンのπ系(アリルアニオン型に広がった4電子)とアルケンのπ(2電子)が合わせて6電子、環状に位相よく重なる芳香族的な遷移状態結合が切れかけ・できかけの、エネルギーが最も高い一瞬の状態。取り出すことはできない。(Woodward–Hoffmann許容の[π4s+π2s])を通れるからである。イオンやラジカルの中間体を挟まず、2本のσ結合の生成とπ結合の組み替えが同時に起こる協奏付加になる。だからアルケンの二重結合の幾何(シス/トランス)がそのまま一次オゾニドの相対立体に転写される。

Step2

逆[3+2]開裂(カルボニルオキシド=Criegee中間体とカルボニルへ)

試薬・条件—(一次オゾニドの自発的な開裂)

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この段のあと
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一次オゾニドは弱いO–O結合と三連酸素の張力で不安定なので、すぐに逆[3+2](環化逆付加)で開裂する。五員環のうち中央のC1–C2結合と一方のO7–O8結合が同時に切れる。(1)C1–C2のσ結合電子がC1–O8のあいだへ移って新しいπ結合C1=O8をつくり(B)、(2)玉突きでO7–O8の結合電子が酸素O7へ降りてO7が末端の負電荷をもち(B)、(3)反対側ではO6の孤立電子対結合に使われず、原子の上に対で残っている非共有の電子対。求核剤として攻める手になる。がC2–O6のあいだに降りて新しいπ結合C2=O6をつくる(A)。結果、分子は2つに割れる:一方は中性のカルボニル炭素と酸素が二重結合したC=O構造。炭素が電子不足で、求核剤に攻められる。=アセトン (CH3)2C1=O8、もう一方はカルボニルオキシド=Criegee中間体反応の途中で一時的にできる、ある程度の寿命を持つ化学種。遷移状態とは別物である。(アセトアルデヒドオキシド CH3–C2H=O6⁺–O7⁻、C2=O6が正電荷、末端O7が負電荷の反応性の高い1,3-双極子)。

Q.なぜ一次オゾニドはそのまま安定に留まらず、こう割れるのか

A.一次オゾニド(1,2,3-トリオキソラン)は3つの酸素が連なり、弱いO–O結合を2本抱えて張力が高い。逆[3+2]でC1–C2結合と一方のO–O結合が切れると、強いC=O二重結合が1本でき(カルボニル)、残りはO–O結合を1本だけもつCriegee中間体になる。弱いO–O結合が1本減って強いC=Oができるぶんエネルギー的に下り坂なので、不安定な一次オゾニドは低温でもこの開裂へ進む。生じたカルボニルオキシドは反応性の高い双極子で、次段でもう一方のカルボニルと組み替わる。

Step3

再結合の[3+2]環化付加(二次オゾニド=ozonide の生成)

試薬・条件—(Criegee中間体とカルボニルの再結合)

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この段のあと
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開裂で生じたCriegee中間体反応の途中で一時的にできる、ある程度の寿命を持つ化学種。遷移状態とは別物である。カルボニル炭素と酸素が二重結合したC=O構造。炭素が電子不足で、求核剤に攻められる。オキシド)とカルボニル(アセトン)が、こんどは配向を変えてもう一度[3+2]環化付加で結合する。カルボニルオキシドが1,3-双極子(求核末端は負電荷のO7、反対末端は炭素C2)、アセトンのC1=O8がジエノフィル役。(1)カルボニルオキシドのC2=O6のπ電子が酸素O6へ降りてO6の正電荷を中和し(B)、(2)玉突きでアセトンのC1=O8のπ電子が炭素C2を攻めて新しいσ結合O8–C2をつくり(A)、(3)末端の求核酸素O7の孤立電子対結合に使われず、原子の上に対で残っている非共有の電子対。求核剤として攻める手になる。がカルボニル炭素C1を攻撃して新しいσ結合O7–C1をつくる(A)。2本の新しいσ結合(O8–C2・O7–C1)が同時にでき、酸素が1,2,4の位置に並ぶ五員環——二次オゾニド(ozonide、1,2,4-トリオキソラン。ここでは3,3,5-トリメチル体)が閉じる。

Q.なぜ一度割れたのにまた環に戻るのか。一次オゾニドと二次オゾニドは何が違うのか

A.一次オゾニド(1,2,3-トリオキソラン)は酸素が3つ連続し、弱いO–O結合を2本抱えて不安定だった。逆[3+2]で一度ばらけてから配向を変えて組み直すと、二次オゾニド(1,2,4-トリオキソラン)では酸素の並びが1,2,4になり、酸素O8が2つの炭素C1・C2のあいだに割り込む。O–O結合はO6–O7の1本だけになって張力も下がるので、二次オゾニドのほうが安定で、単離できることもある。ここまでで、もとのC1=C2二重結合は完全に断ち切られ、2つの炭素が別々の酸素で隔てられた形になっている。

Step4

還元的後処理・過酸化物O–O結合の開裂(Me2Sの求核攻撃)

試薬・条件Me2S(硫化ジメチル・還元的後処理)

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この段のあと
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単離した二次オゾニドを還元剤で後処理する。ここでは硫化ジメチル Me2S((CH3)2S)を使う。硫黄S20は孤立電子対結合に使われず、原子の上に対で残っている非共有の電子対。求核剤として攻める手になる。をもつ求核剤電子が余っていて、電子の足りない相手(求電子剤)へ電子対を差し出して結合をつくる化学種。で、オゾニドの弱い過酸化物結合O6–O7の一方の酸素O7を攻撃する(酸素上でのSN2的な攻撃)(A)。(2)玉突きでO6–O7の結合電子が酸素O6へ降りてO–O結合が切れ、O6がアルコキシドアルコールのO–Hが外れ、酸素上に負電荷を持った陰イオン。強い求核剤・塩基である。(O6⁻)になる(B)。五員環が開いて、鎖状のスルホニウム–アルコキシド両性イオン O6⁻–C2H(CH3)–O8–C1(CH3)2–O7–S⁺(CH3)2 になる。硫黄S20はO7と結合して正電荷を帯び、余分な酸素を引き取る準備が整う。Zn/H2O を使う場合も、金属が同じO–O結合を還元的に断つ点は共通である。

Step5

断片化(アセトン+アセトアルデヒド+DMSO の生成)

試薬・条件—(両性イオンの分解)

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生成物(完成)
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開いた両性イオンが将棋倒しに分解して、2つのカルボニル炭素と酸素が二重結合したC=O構造。炭素が電子不足で、求核剤に攻められる。とDMSOへ落ちる。(1)アルコキシドアルコールのO–Hが外れ、酸素上に負電荷を持った陰イオン。強い求核剤・塩基である。O6⁻の孤立電子対結合に使われず、原子の上に対で残っている非共有の電子対。求核剤として攻める手になる。がC2–O6のあいだに降りて新しいπ結合C2=O6をつくり(B)、(2)玉突きでC2–O8の結合電子がC1–O8のあいだへ移って新しいπ結合C1=O8をつくり(B)、(3)さらにC1–O7の結合電子が酸素O7へ降りてO7が硫黄S20の側に残る(B)。結果、C2=O6のアセトアルデヒド CH3CHO、C1=O8のアセトン (CH3)2C=O、そして余分な酸素O7を受け取ったジメチルスルホキシド Me2S⁺–O7⁻(DMSO)ができる。もとのC1=C2二重結合の2つの炭素が、それぞれ独立したカルボニル炭素になった。

Q.なぜ後処理に還元剤(Me2SやZn)を使うのか。使わない/酸化剤だとどうなるのか

A.二次オゾニドはまだ弱いO–O結合を残しており、そのまま扱うとカルボニルオキシド由来の炭素が過酸化物経由で酸化されうる。過酸化水素 H2O2 のような酸化的後処理では、アルデヒドになるはずの炭素(ここではC2)がさらに酸化されてカルボン酸になる。Me2S や Zn/H2O のような還元的後処理は、余分な酸素を還元剤(硫黄→DMSO、Zn→ZnO)に引き取らせてO–O結合を還元的に断ち、炭素の酸化数を上げずにアルデヒドとケトンで止める。だから『アルデヒドが欲しければ還元的後処理』が要になる。

考察

なぜこう進むのか

原理
オゾン分解は『[3+2]環化付加 → 逆[3+2]開裂 → もう一度[3+2]再結合』という3つの協奏的複数の結合の切断と生成が、中間体を経ずに一度に同時に起こるさま。ペリ環状反応電子が環状に動き、1つの遷移状態で協奏的に進む反応。でC=C二重結合を解体し、原子を組み替えて二次オゾニドに畳み直し、最後に還元的後処理でそれを2つのカルボニル炭素と酸素が二重結合したC=O構造。炭素が電子不足で、求核剤に攻められる。へ切り出す反応である。第1段でオゾンの1,3-双極子(アリルアニオン型の4π電子)とアルケンの2π電子が6電子・環状の芳香族的遷移状態結合が切れかけ・できかけの、エネルギーが最も高い一瞬の状態。取り出すことはできない。で結びついて一次オゾニドをつくる。第2段でその一次オゾニドがC1–C2結合と一方のO–O結合を同時に切って、中性のカルボニル(C1=O8)と反応性の高いカルボニルオキシド(C2=O6⁺–O7⁻、Criegee中間体反応の途中で一時的にできる、ある程度の寿命を持つ化学種。遷移状態とは別物である。)に割れる。第3段でこの双極子とカルボニルが向きを変えて再び[3+2]し、酸素が1,2,4に並ぶ二次オゾニドが閉じる。最後にMe2Sの硫黄が弱いO–O結合を還元的に断ち、玉突きで2本の強いC=O二重結合ができてアセトンとアセトアルデヒドに落ち、余分な酸素はDMSOとして硫黄に引き取られる。
選択性
Q.この反応の生成物から何が分かるのか(構造決定上の意義)
A.オゾン分解はC=C二重結合だけを狙って完全に切断し、二重結合の両端の炭素をそれぞれ独立したカルボニル炭素に変える。だから生成物のカルボニルを見れば、もとの二重結合がどこにあり、その両端にどんな置換基が付いていたかを一意に逆算できる。2-メチル-2-ブテン (CH3)2C=CHCH3 では、(CH3)2C= の端がアセトン (CH3)2C=O に、=CHCH3 の端がアセトアルデヒド CH3CHO になる。アセトン(メチルを2本背負った炭素=ケトン)とアセトアルデヒド(メチル1本と水素を背負った炭素=アルデヒド)が出たという事実そのものが、二重結合の位置と両端の置換パターンを指し示す。二重結合を『そこで切ってラベルを付ける鋏』のように使えるので、オゾン分解は未知アルケンの構造決定に用いられる。
駆動力
Q.何がこの一連の反応を進めるのか
A.出発点はオゾンの高い反応性と、一次オゾニド(1,2,3-トリオキソラン)の不安定さにある。三連酸素O8–O7–O6と2本の弱いO–O結合を抱えた一次オゾニドは、逆[3+2]で弱いO–O結合を1本減らし強いC=O二重結合を1本つくる方向へ落ちる。再結合してできる二次オゾニド(1,2,4-トリオキソラン)はO–O結合が1本に減って張力も下がり、比較的安定で単離できることもある。最後の還元的後処理では、残る弱いO–O結合を還元剤(硫黄→DMSO、Zn→ZnO)が断ち、強いC=O二重結合が2本できるぶんエネルギーが大きく下がる。全体として『弱いO–O結合・π結合を強いC=O二重結合へ置き換える』のが駆動力である。
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PubChem 照合緑・完全一致(CID 180)
propan-2-one
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